19 / 21

第19話 ファーストセックス(*)

「なぁ、あの……」  紅葉と抱き合った臣が、不意にもぞりと身体を捩った。  身体の芯から湧き出す、何か熱いものが、臣を駆り立てるような焦燥で満たしつつあった。 「好きだって言ったんだから、その……」  臣が言いあぐねていると、紅葉が少し意地悪そうな顔つきになり、先を促した。 「ん……?」 「し、したい……」  思い切って切り出すと、紅葉は笑みを深くした。 「なぁ、しよ……? 俺……紅葉としたい。今」  言いながら、頬が赤くなっていくのを臣は止められない。強いられるままに求めたことは、何度もあったが、自分から望みを口にするのは初めてだった。 「臣ちゃん、おねだりが上手になったね」  紅葉に褒められて、髪を静かに梳かれる。指先が頭皮を掠めるだけで、ゾクゾクとした悦びが背筋を駆け抜けた。 「いいだろ、紅葉……しよう?」  もう一度、ねだるように言い、紅葉の腕を臣が引くと、アルファ用の寝室へ、紅葉は促されるまま、臣とともに入っていった。 「ちょっと屈めよ、紅葉。届かない……」 「ん」  最初に寝室に誘った時のことは、不安でいっぱいで、臣はよく覚えていない。でも、紅葉が臣を気遣って、屈んでくれたことだけは憶えていた。背伸びをして、紅葉のシャツの肩の部分をしがみ付くみたいに持った臣を待っていたかのように、紅葉が背中を曲げた。  ちゅっ、と唇が合わさるだけで、鳥肌が立つほど気持ちいい。  発情はそれなりにおさまったはずなのに、まだ残り火が熾のように燃えていた。 「ん……っ、紅葉、はぁ……っ好き、……っ」  紅葉のしなやかな筋肉の付いた背中に腕を回し、臣は夢中でキスをした。  舌を入れると、紅葉が応えてくれて、背筋が期待に戦慄いた。 「これ、邪魔……っ」  紅葉のシャツを剥がし、焦ったい手つきで、もたつきながらスラックスの前を解いていると、いつの間にやら臣はTシャツとデニムを脱がされ、下着一枚にされてしまう。ベッドに二人で体重を移すと、ベルトを解いて半裸になった紅葉が臣へのしかかってきたが、ひととおりキスをすると、ピタリと愛撫を止めてしまった。 「紅葉……っ?」  悦楽により、高まりつつあった臣は、なかなか触ろうとしない紅葉に焦れた。 「好き……だ。紅葉が好きだ……っ、だから……」 「ん」 「……っ、触ってるだけで、気持ちいいし、触られると、すごく幸せになる……。それって、好きってことだろ……?」 「うん」  紅葉は臣を静かに見下ろし、臣と同じく情欲に滲んだ目をして、頷いた。 「なぁ、どうしたい……? どうすれば、もっと……」  溶け合える?  ひとつになれる?  言いながら、臣は紅葉の腰を膝で挟んだ。 「俺……っ、お前と愛し合いたい……」 「──うん」  瞬間、脚の間に紅葉がいるせいで、閉じられないで晒している臣の屹立を、紅葉が下着越しに、指でなぞった。 「ぁ……!」 「もう濡れてきてる……、臣ちゃんの身体は、嘘をつかないね……?」 「俺、も……っ、もう、嘘は言わない……っ、から」 「うん……」 「ん……っ、なぁ、触って、欲しい……っ」 「欲しければ、自分で動いてごらん」  つん、と突つくだけの紅葉の指が、下着越しに臣の敏感な先端部分に接着されている。臣はたまらず、片手を背後に回し、紅葉の首にもう片方の手で縋り付きながら、腰を浮かせた。そのまま、接着されている紅葉の指先が、自身の鈴口に付くように、濡れた下着越しに押し付け、腰を揺らしはじめる。 「ふ……っぁ、はぁ……気持ち、ぃ……っ紅葉、──……っん、好き……っ、ぁ……っ」  紅葉の指を先端に擦り付けるたびに、臣の鈴口からはトロトロと粘液が出て、下着を濡らした。濡れた染みが、やがて大きくなり、布地が吸収し切れなかった先走りを下着の外へ垂らしはじめるまで、臣は紅葉に快楽をねだり、腰をうごめかし続けた。 「んぁ……、ぁ、好き……ぃ、っ紅葉、好き、だから……ぁぁ……っ」 「臣ちゃん……」 「お、れの、こと……っ、虐めて、い……っか、らぁ……っ、ぁ、ぁぁっ……」  しばらく、くねらせていた腰を止め、臣は膝を使い紅葉の近くへと身体を寄せた。下着の前はぐしょぐしょに濡れて、屹立した熱杭が、腫れたような痛みを伴い上を向いているのがくっきりとわかる。紅葉の指を跨ぎ、後蕾のある場所へ指先を導くと、臣は紅葉にキスをしながら、窄まりの奥を突くように仕向けた。 「ぁっ……気持ち、ぃ……っ、ん、紅葉……っ」  紅葉の上に向けた指先に、臣は後蕾を擦り付けた。オメガの愛液のせいで濡れそぼった下着越しに、腰を揺らめかすたびに、中が戦慄く。布越し突かれるように仕向けているのは臣だったが、そんな臣を眺めていた紅葉の、日向の匂いが、急に、いつになく強くなった。そう感じた瞬間、あっという間に身体の位置を入れ替えられ、組み敷かれた。 「臣ちゃん……っ」 「紅葉……っ──?」 「きみが……こんなに淫らな人だとは知らなかった。俺の指だけで満足するつもり?」 「だっ……て、ぁ、欲しい……っ」 「欲しいなら、触る?」 「いい……の、か……?」 「いいよ。俺も、きみに触れたくているから……」  紅葉は言うと、臣に唇を重ねてきた。何度もしたキスが、深くなるのに時間はかからなかった。舌を口内に捻じ込まれ、息をすることすら満足にできなくなっていく。臣は絶え間ない口付けをされながら、ほどけかかっている紅葉のスラックスの前を、手探りで引き開けた。おっかなびっくり紅葉の下着ごとずり下ろすと、紅葉もまた、臣の下着をずり下ろし、脱がせた。  生まれたままの姿になり、二人で、抱き合う。心臓の鼓動が肌伝いに、力強く、早く、鋼のように打ち付けているのがわかった。温もりは熱いほどで、腕に込められた力の強さに、互いに離れ難く感じていることを、教えられる。 「ぁ……ぁ、紅葉、っこれ……、おっき……っ」  臣が言いながら、紅葉の勃起したペニスに触れると、かすかに息を詰めるのがわかって、嬉しかった。 「俺の……指で、感じてくれてるって……、思うだけで、好き……っ」 「臣ちゃ……」 「へへ。紅葉の……コレも、好き……。俺のこと虐めるの、好き……っ」  臣がとろりと笑うと、紅葉がどこか胸を突くような、何かを堪える表情をした。 「……っ」  紅葉は無言のまま臣をそっと寝かせると、臣には自分の充溢したペニスを好きに握らせ、そっと愛撫を再開した。 「ぁ……っ、ふぁ……っ、だ、めそ、っそこ……っぁ、好きぃ……っ」  紅葉の愛撫は、まるで体の奥にある熾火を、残らず起こし、燃え上がらせるようなものだった。  焚きつけられるようにして、臣は肌を触られるたび、辿られるたび、衝動が耐えられないものになってゆくのを、感じる。紅葉のペニスを握らされたまま、その手が止まってしまうほどに、それは真摯で強烈なものになっていった。  とうとう、紅葉の指が膝を割る頃には、臣は半泣きになっていた。 「好きぃ……ぁ──っ紅葉ぃ……っ」 「臣ちゃんは、俺が何しても「好き」って言うね……?」 「ぁ、だって……ぁ、いいっ……からぁ……っ」 「ね、今、してるの、臣ちゃんと両想いになって……最初のエッチだって、わかってる?」 「わ、か……っ、ぁ、んっ……てる、んぁ……っ」 「そう……?」  トロトロに蕩けた臣を見下ろした紅葉は、そっと唇に触れるだけのキスを落とすと、やっと膝の奥にある後蕾に、指を含ませはじめる。臣のそこは、昨夜から強いられ続けた快楽に、散々に擦られたせいで赤くなっていた上、紅葉の形を覚えようとして、期待にヒクついている始末だった。  指の腹が後孔に接着されて、圧がかけられる前に、紅葉がそっと呟いた。 「ね、果物たち、ここに呼んでもいい……? 臣ちゃん」 「へ……ぁ?」 「俺たちの、最初の愛し合うエッチだから、彼らに見せてあげたい。俺が臣ちゃんをどう愛するのか、臣ちゃんが俺をどう受け入れるのか、全部、見せてあげたいんだ。……駄目?」 「……っ」  逡巡する臣を視界におさめた紅葉は、そのまま首筋を甘噛みしたり、乳首を擦ったりしながら、後蕾をぐっ、ぐっ、と軽い力でくすぐりはじめた。そうされるたびにお願いされているのがわかり、臣はぐずぐずになってゆく。何とか理性をかき集めて、紅葉の言った意味を考えたが、前日までとは違い、判断が自分に委ねられていることに気づき、首をこくりと縦に振った。 「……っいい、よ、紅葉……」 「ほんとに?」 「ぉ、れも……っ、ほしい、……っから……」 「ほんと……?」 「記念に、なる……し、これから果物たちとも一緒に暮らすんだし……紅葉にも、誰にも、もう隠し事、したく、ない……」  汗で額に張り付いた黒髪を、紅葉が鼻先でそっとかき分けてくれる。紅葉の独占欲の強さは、何度もつがった時に、思い知らされている。きっと、自分が臣の所有者で、一番なんだと示威したいのだと思った。見られながらするのはまだ恥ずかしい臣だったが、紅葉の気持ちも嬉しかった。そんな風に愛してくれるなら、羞恥心ぐらい、踏み越えられる。  それに、臣も紅葉のものになるところを、二人に記憶しておいてほしい、と思った。 「じゃ、呼ぶね……?」 「ん……」  紅葉は最後の確認をすると、ベッドヘッドに置かれていたハンドベルを鳴らした。  しばらく待っていると、やがて薄く開いた寝室のドアから、二人が静々と入ってきた。 「紅葉さん、臣さん……良かった」 「仲直り、したんですね」  口を揃えて林檎と蜜柑が言う。寝乱れたベッドの上にいる二人を見ても、少し頬を上気させるだけで、何の嫌悪感も抱かないでいてくれるのが、有り難かった。臣が「ん……」と頷くと、紅葉が顔を上げて、果物たちに、臣の左右の腕を持ち、逃れられないように支えるよう頼んだ。 「臣と両想いになって、初めてつがうところを、きみらに見ててほしいと思ったんだ」  すると、果物たちは顔を見合わせて互いに少し笑い合った。  それから、ベッドを軋ませ臣の左右の手を、ひとりずつが握った。 「臣さん、良かったですね」 「我々も、立ち会えて光栄です」 「ん……あ、の、恥ずかしいけど、お、俺が……紅葉とセックスするところ、見、て……っ」  言った瞬間、良くできましたと言うような紅葉の触れるだけのキスが、額に降ってきた。同時に紅葉の指が奥のあわいを押し開きはじめる。 「っ、ぁ……っ、ふぁ……っ!」  中に捻じ込まれる、熱くてしっかりと節くれ立った逞しい指に押し開かれ、臣はあえかに喘いだ。ゆっくりと施される指技に、ねっとりと中が潤んでいくのが臣にもわかる。早く欲しくて、紅葉の腰に脚を絡ませて腰を左右に振った。あさましい姿も、全部、果物たちに見てもらう。記憶してもらって、離れられないように、全部を明け渡して、果物たちを、そして紅葉を、信じて心から愛し合いたい。 「ぁ……!」  たっぷりと臣を愛した指が、ぐちゅ、と卑猥な音を立てて抜かれて、やっと紅葉のカリ太な先端が、後蕾に接着された。 「いくよ……?」  紅葉が艶やかに笑い、臣と果物たちに確認を取る。  と、果物たちが頷くのが見え、臣もまた「んっ……」と紅葉のそれに応じた。  ぐじゅっ、と水音が立ったかと思うと、太い先っぽが入ってくるのがわかった。何度、飲み込む時も、この瞬間は苦しい。臣は膝を開いて、必死になって紅葉が挿入ってくるのを受け入れた。ぎゅ、と思わず両腕に力が入り、果物たちが拳になった両手を握ってくれているのが心強い。 「っ……ぁ、っ……っ!」  まるで内壁を削るようにして、紅葉の剛直が挿入されてゆく。  半分、入ったようなところで、下腹が苦しくなってきて、同時に奥が、もっとほしいと言うように疼いた。苦しいのは臣ばかりではないようで、紅葉もまた、秀麗な眉を顰めて、ぐぐ、ぐぐ、と辛抱強く、何度かに分かれて腰を進めてゆく。 「臣ちゃん……っ、臣──愛してる……っ」 「んっ、ぁっ……!」  最後のひと突きで紅葉の熱杭が、ずんっと根元まで入った瞬間、ぱちゅっと音がして、まるで質の違う快楽が訪れた。ビリビリとつらいほどの悦楽が、腰骨から背筋を経て、臣を一気に高みへと押し上げる。目の前が白く発光して、快楽がさざ波のように伝播していく。 「ひっ……ぁ! ぁあぁ──……っ!」  あまりの衝撃に、喘ぎながら背を仰け反らせ、ぶるっと震えて鳥肌が立った。 「はぁ……っ、ぁ、ぁあっ……!」  一瞬の出来事に、何が起きたのかわからないまま、やがて、ろくに触れられていなかった臣の屹立から、ドロッと白い粘液が吐き出される。

ともだちにシェアしよう!