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一、最悪最低な②

 僕たちが生まれる前は、αやΩははっきりとカースト制度で差別化されていたらしいが、今は抑制剤の開発が進み、匂いを抑えられるようになった。  僕はΩに生まれて、辛かった場面はそうそうないかな。悲観的にはならかなかったのは、良い時代になったのよって、母が笑っていた気がする。  そのせいで運命の番が見つけにくくなったって騒がれているが、Ωの社会的地位の回復のおかげで差別はなくなったらしい。     「運命の番に、強引にキスされちゃうヒロインがまじ可愛いんだよ」 「へえ。僕は、前のアラビアの王子様が運命の番だった漫画の方が好き」 「あー、あれはファンタジー過ぎて俺はハマらなかったなあ。あーあ。俺がαだったら、この可愛いΩちゃんを幸せにしてやれたのになあ」  今回のヒロインは、利圭のタイプだったらしい。  待ち受けにしようと携帯を取り出して表紙を写メっている。 「僕たち、Ωだし。情熱的なαと恋をするのかなあ」 「どうだろ。壮爾は、なんかエロい男と結婚しそう。俺は女の子がいいなあ。女の子の強気なαとか、絶対可愛いじゃん」  うーん。性別差別はするつもりはないけど、僕はやっぱり少女漫画みたいに男女の恋に憧れちゃうな。  うきうきと話す利圭だったが、急に教室のドアが開いた瞬間「げえ」と引かれた蛙のような声を出した。 「生徒会長」  銀のフレームに、一ミリも乱れのない制服。謹厳実直、方正謹厳と彼の真面目さを称える言葉は並べられるが、やや面白みに欠ける優等生。  まるで利圭の好む少女漫画のちょっと不良っぽいがカリスマ性のあるαとは正反対。非の打ちどころのない完璧なαに、利圭は嫌悪感を隠さない仏頂面になった。 「ここは俺たちが使ってるから、来ないでくださーい」  しっしっと手で追い払い、漫画に視線を落とす。  生徒会長は困った様子で僕の方を見た。 「空き教室がここしかなくて、いいかな」  空き教室がここしかない?  今日は午前中で授業が終わっている。使っていない教室なんて沢山あるだろう。

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