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一、最悪最低な③
しかもここは、旧華道部の部室で、特別棟の一階の一番奥にある部屋。
教室丸々二クラス分ぐらいの大きなスペースに、寝転ぶぐらいのソファとドアの前には利圭がどこからか持ってきたキャスター付きの衝立。ドア二つ分ぐらいなら隠せるぐらいの大きさで、昼寝しているときはこれをドアの近くに置くからすぐにわかる。
あとは、痛んで放置されたままの畳。
僕たちはソファの上で漫画を読み漁って時間をつぶすことが多かったので畳の方は使わない。
畳のスペースと、ソファを置いてあるスペースの間に衝立を移動した。
「そちらでよければ。僕たちはこちらで好きにさせてもらうので」
「ああ、悪い。花屋が事故で渋滞に巻き込まれているらしい。もう少し待っていてくれ」
「いえいえ。僕は時間があるので――」
そういってソファに座ろうとすると、生徒会長の後ろから頭一個分ほど大きい男が、少し屈んでドアから入ってきた。
あのドアにぶつかりそうってことは190センチは裕にありそうだ。
真面目すぎて少し威圧的に感じてしまう生徒会長とは正反対で、利圭の好みのヒーローみたいな悪そうな雰囲気。生徒会長の隣に居ても、飄々としているその男。
彼は僕を見るなり、数秒固まった。
停止したDVDみたいで面白い。
「なあ、あの人、少女漫画に出てきそうじゃない?」
利圭に耳打ちすると、利圭は漫画から顔を上げる。そして、うへえと変な声を出した。
「無理無理。絶対にヒロインにDVしそう。女遊び激しすぎて、大切にしないって。てか、誰」
「明日の新入生代表の挨拶する一年生だよ」
「お前に聞いてねえよ」
利圭は、毛を逆立てた小動物のように生徒会長を睨むと、衝立の中へ隠れた。
生徒会長も何を考えているのか、無表情のままため息を吐いた。
「あんた、名前なんて言うの」
けれど、新入生代表挨拶くんは、衝立の上から僕たちを覗き込んでくる。
圧倒的なαの匂いに、僕も一瞬眉をしかめてしまったと思う。
ヒートが来ていない僕でも分かるんだ。利圭は完全に警戒モードだ。
これが運命の相手の匂いなら、胸がときめくのかなってロマンチックな考えが浮かんでつい笑ってしまった。
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