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一、最悪最低な④

「僕は香川壮爾。(かがわ そうじ)こっちは親友の津々村利圭(つつむらりか)。君は?」 「沖沼宥一郎。そこの生徒会長の従兄弟」 「沖沼……」 「沖沼製薬会社の息子だよ」 何故か僕の隣に座ろうとしたので、漫画を置いて防いだ。 なれなれしいし距離の詰め方が不気味だ。 でもそっか。天下の沖沼製薬会社の御曹司だからこの傲慢な雰囲気なんだな。 Ωの僕は、彼の会社に感謝しないといけないんだが、どうしても視線が気持ち悪い。 顔の造形は、男の僕が見ても惚れ惚れするほど格好いいはずなのに、少女漫画のようなときめきは感じられなかった。 それどころか、僕と違って筋肉質でがっしりした体型は羨ましいはずなのに、憎らしくもある。 「悪いんだけど、空き教室なら他にもたくさんあるんだよね。僕たちの邪魔するなら他行きなよ」 「隣に居るのも邪魔なの」 「お利口さんは、生徒会長みたいに離れた場所に行くと思うよ」  はやく利圭と新作の漫画を読みたい。語らいたい。  お金持ちか何かしらないが、さっさと出て行ってほしい。 沖沼くんは、口笛を吹くとそのまま上機嫌で去って行く。 「なあ、あの美人、Ωじゃん」 なんて聞こえる声で、生徒会長に話している。 「ほら、君のお姉さんが通っている華道の家元の――」 「知ってる知ってる。Ωのくせに家柄もいいじゃん」 うわ。最低。Ωのくせにッて。 そんな差別用語、久しぶりに聞いたし、聞こえるように言う馬鹿を初めて見た。 「なんか漫画みたいな、運命のαってそうそう居ないねえ」 「居ねえよな。クラスの奴らもほとんどβだし、αの友達は皆、良い奴だけど、良い奴どまりじゃん。偶に生徒会長みたいな、Ωをゴミみたいに見てくる奴はいるけど」  お前も聞こえるように言うなよ、と思いつつ苦笑してしまう。  駄目だ。僕たちもそんな先入観で見てしまっているんだ。彼が僕たちをどう思うかは我慢するしかないね。 「運命の番なんて信じてるの?」  また話に入ってきた。 「大人の会話に子どもが口を挟んだら駄目だよって習わなかったの」 ガキは黙ってろって意味で牽制したのに、沖沼とやらの年下馬鹿は衝立を蹴飛ばした。 「てめえ、直せ」  利圭が飛び掛かろうとするので、慌てて止めた。  生徒会長が代わりに衝立を立てようとすると「お前は触るな」とこれまた暴言を吐く。

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