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一、最悪最低な⑤
「運命の番なんてお伽話だろ」
「……なんでそう思うの」
少なくても、運命の番で盛り上がっている漫画を好む僕たちの前でそれは言わないでほしかったんだけどね。
「だって目の前にこんなに好みのΩが居て運命のビリビリ感を感じてるのに、あんたは感じてないんだろ」
「……は?」
鋭い瞳、僕なんて簡単にひねりつぶしてしまいそうな大きな体に高身長。
そしてヤンチャしてましたって雰囲気を隠そうとしない飄々とした態度。
それでも新入生代表を務めるのだから学年主席ってことだ。
そんな彼が舐めた態度ではあるが、これは一応、僕を口説いているのかな。
「全く感じないし生意気で、可愛くないなあって思ってる」
「ははっ。壮爾、辛口ぃぃ」
「で、従兄弟でここにつれてきた生徒会長も、物置なのかなって感じ」
僕たちの機嫌が悪いのを察して、静かにしてくれてもいいのに。
設営の遅れに、僕たちの楽しみタイムの邪魔、この隠れ家の侵入。
色々と不満が蓄積しているのに、どうして普段通りに接してもらえると思っているんだろうか。
「申し訳ないな」
「いいよ。僕たちが場所を変えよう。利圭、部室に行こう」
「ああ。気分悪っ。自由時間まで小言言うやつと一緒に居たくないっての」
利圭は生徒会長にわざわざあっかんべーと舌を出してから教室出ていく。
確かに利圭のピアスや腰パンを「似合わない、不細工」と散々言ってくるし制服を着崩していたら問答無用で直してくるし、テストの赤点をわざわざ声に出して読む無神経なところはあるけど、悪気はないんだと思うよ。利圭がただ他の人より目立って悪いから、きつくなるだけだと。
それでもその日は、そのまま別の教室で生花が届くまで待機して到着してからは生徒会長と沖沼くんが見ながらの生け花造り。
あの鋭い瞳に見られながらの生け花は、居心地が悪かったけど、気にしないことにした。
現実のαとΩは、少女漫画のように素敵な恋愛には発展しないようだ。
靴箱に向かっていると、廊下に伸びる影が長い。
結局、最後の集まりで校長のねぎらいの言葉まで聞かなくちゃいけなくて遅くなってしまった。まあ、利圭が最後まで残って作業してくれていたのを校長が褒めてくれたからよかった。誤解されやすい見た目なのだからここでアピールしておくのも大事だ。
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