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一、最悪最低な⑥
本人は他人の評価に興味ないのか、長く伸びた影を蹴り上げるように歩いている。
「現実のαって、王子様みがないのなあ」
「ないですね。さっきの二人で恋愛漫画ってヒロインが可哀そうじゃないです?」
「Ωヒロインに対して、絶対に見下すよなあ」
あははって笑っていると、向こうからαの女子生徒が数人歩いてくる。
すぐに利圭に気づくと、手を振ってくれた。
「あー。利圭ちゃん、もう新巻ゲットしてる」
「利圭ちゃん言うな。読んだら貸すよ。ヒロイン超かわいい」
「可愛いよねー。楽しみにしてる」
さっきの王様ぶったαの男二人とは大違い。
マウントしてこないαの女の子たちは利圭の頭を撫でると去って行った。
「……α女子とΩ男子の恋愛漫画ってあったっけ」
「今度探しましょうか」
探してみよう。小さな可能性。
ヒートもまだ来ていない僕たちだけどもしかしたら、少しは運命のαに会えるかもしれないのだから。
「利圭は、運命のαが居るとしたら、男がいい? 女がいい?」
「え、ええっ 漫画は好きだけど自分に置き換えたことなかった。えー、可愛いのはやっぱ百パ女の子じゃん」
「そうですね。じゃあ女の子か」
「でも俺、家柄悪いから。αの女の子ってご令嬢ってイメージ。意地悪なαに振られたΩちゃんでもいいし。運命は俺が決めるぜ」
格好いいことを言う僕の親友は、豪快に目の前の壁にぶつかった。
少女漫画は好きだ。ヒートもなにもしらない僕たちの唯一の知識になるのだから。
「てか。ヒートってこのまま来ないのかな。俺がヒートしたら超エロイって女たちが騒いでたんだけど」
「あはは。どうかな。来なくても不便はないですよね」
「壮爾もめっちゃエロいじゃんよ。たまに横顔がべっぴんだから俺も驚くことあるし」
「母に似て中性的な顔なせいですね。あんま表情が出ないから自分の顔は好きじゃないんですよ」
元気な利圭と違い、女っぽいなよなよしたイメージになってしまう僕は、驚くほどモテない。
利圭は愛嬌があるが、僕は全く。
そのせいで現実の恋愛に積極的になれないのかもしれない。
「お互い、好きな奴ができたら一番に言おうな」
壁にぶつかった鼻を抑えながら、豪快に笑う。
こんな屈託のない利圭の顔を見たら、少しは生徒会長の態度も柔軟になるかもしれない。
犬猿の仲の二人は、卒業までに少しは和解できるといいのだけど。
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