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一、最悪最低な⑦
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一年生の入学式の日は、休み。一年生を部活勧誘するために校門の前でユニフォームを着て賑やかな声は聞こえてくるが、引退した僕と帰宅部部長の利圭はまた昨日の教室で賑やかな校門を眺めている。
「もう少し静かになるまで帰れないな。裏門から帰る?」
「あ、うーん。ちょっと待ってて」
実は生徒会長と待ち合わせしているとは言えない。
昨日、わざわざうちの家にまで来て「ヒートが来ていないのなら、別の医者に診てもらわないか」とうちの両親を交えて生徒会長の家の病院の受診を薦められた。
ヒートがなくても僕と利圭は、一応は妊娠する可能性はあるとは言われている。
ヒートが短い人も長い人もいる中、全く来ない場合もあるらしい。
逆に抑制剤が効かない人のために強い薬も作っているとか。
そしてヒートを誘導させる薬も開発中で、完成したら試してほしいとかなんとか。
生徒会長は沖沼製薬会社のCEOの孫で、同じく沖沼病院の跡取りである優秀α。
僕たちにヒートが来ていないことを心配してくれていたらしい。
両親から、受診は僕の気持ちを尊重してくれている。
ただ生徒会長は僕ではない。
「僕に利圭を説得してほしいんですね」
「ああ。私は嫌われているので」
貴方が嫌われることようなことを言っているのですよ、とは言えない。
多分、いや、おそらく利圭は、生徒会長の本名すら知らないと思う。
可愛がってくれる人には甘えるが、嫌われていると分かるととことん近づかないぐらい徹底的に警戒している。
「好きな子をいじめてしまうってことですか?」
「いじめているつもりは毛頭なく、その、勿体ないというか。彼はもっとできる人間だと思う」
「気持ちの押し付けは、嫌われますよね。身勝手すぎます。利圭は優しくしてくれたら、同じぐらい優しくしてくれるんだから」
生徒会長は気まずげに下を向いた。この人も散々上に立ってきたせいで、自分の考えを曲げることができない、典型的なカースト上位αだ。
「とりあえず、生徒会長が説得できるなら昨日の教室で待ち合わせしてもいいですよ」
「ああ。頼む」
無口と言うか、言葉が足りないというか。
指導力や人望があるのが不思議なぐらい、寡黙な人だ。
話はそれだけだったようで、利圭には「昨日のご褒美に生徒会長から話があるらしいよ」と説明して空き教室で待っていた。
本当に、それまでは普通の生活だった。
母親の華道を習い、利圭と少女漫画で騒ぎ、自分の学力にあった大学に進んで、誰かと恋に落ちる。
そう思っていた。
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