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一、最悪最低な⑧

*** 「もう帰っていい? なんで俺が生徒会長なんて待たないといけないの」 「ちょっと遅すぎるよね。というか、利圭は生徒会長の名前、知ってる?」 「全く知らん。保健室に行って薬の名前見たら、どっかに苗字ぐらい載ってんじゃねえの」  一応、沖沼製薬会社と関係あることは知っているようだ。  沖沼征一郎って名前だったはず。僕も曖昧で笑ってしまった。 「遅くなってすまない」  慌ただしく生徒会長が入ってくると、なぜか隣に昨日の一年生が立っていた。  僕たちと向かい合わせのソファに座って、少女漫画を置いていた机の上に薬の入った袋を置いた。 「これは?」  昨日の話では、受診してって話だった。  が、急に目の前に沖沼病院の名前が書かれた袋を置かれると眉をしかめてしまう。 「怪しい薬じゃないよ。成長ホルモンのバランスを整える薬。まあくすねてきたんだけど」 「……医療関係者の身内としては信じられない話ですね」  そこまで急ぐ必要は僕たちにはない。  何を生徒会長は僕たちに急かしてくるのか、少し不気味に思っていた。 「昨日と話が違うみたいなんで、帰りますね」 「いや、そうやって慎み深いままじゃ、俺の運命に気づけないだろ」  立ち上がろうとした僕の腕を掴んで、机越しで諭すように微笑まれてしまった。 「……なんで関係ない君がでしゃばるの」 腕を振り払うと、余裕を感じさせる笑みを浮かばせるのが面白くなかった。 この一年生は、僕のことを運命の相手として見ている。僕のことを、性交渉の相手として見ているのがわかる、雄の目が嫌だ。  少女漫画のような交際をしたい僕とは、スタート地点が違う。 「えーと、話が見えないんだけど、俺も壮爾も帰るよ」 「――どうすんの、征一郎」 「仕方ないな」 二人は目配せすると、注射器を取り出した。 「大丈夫。海外では合法だから。Ω専用のヒート誘導剤」 「うちの会社でも導入を考えているものらしい」  二人が何を言っているのか分からなかった。  ただ先に利圭が机を蹴飛ばして、僕の手を掴んでドアの方へ走り出した。 「待て」  それなのに、生徒会長が利圭の手を掴んだ。  一瞬の出来事だったと思う。  首に刺さる注射器を見て、僕が叫ぶ。  すると僕の首にも同じ注射器が宛がわれた。 床に注射器が落ちていく。スローモーションで落ちていく。 床の上で弧を描くのを、見つめていると腕を掴まれた。

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