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一、最悪最低な⑨
「お前、こっち見るなよ」
僕の腕を掴んだ男が、もう一人の男にそういうと、そいつも頷いた。
「もちろんだよ。お前も、俺たちを見るなよ」
「誰が見るか。それどころじゃねえよ」
荒い息を吐きながら、お姫様抱っこで連れ去られようとしているのは、僕の親友の利圭だった。
「壮爾っ」
涙目で僕に手を伸ばす利圭。
僕も利圭を連れ去られるものかと手を伸ばしたが、男に抱きかかえられた。
「お前はこっちだって」
埃臭いソファの上に突き飛ばされると、その男は僕の匂いに興奮して熱を込めた荒い息を吐きながら覆いかぶさってきた。
「どうして」
僕と利圭はまだ、ヒートが来たことのない未熟なΩだった。
なのに床に落ちた注射器。そして製薬会社の御曹司のこの男。
熱くなって痺れていく身体。
火照る身体のせいで、定まらない思考回路。
触れてくるこの男の名前を知っている。知っているが、どうして。
「壮爾、壮爾ぃっ」
泣き叫ぶ利圭の声に、もう一度起き上がろうとしたが、片方の腕をソファに押さえつけられる。叫ぼうとしたが、片方の手で、口を押さえつけられた。
「んんーっ んんんつ」
くらくら、する。熱い。
注射器で何を挿入されたのか、その時はまだ分からなかった。
ただ、強制的にヒートさせられた僕に発情して見下ろすこの男。
僕の体に触れ、服を脱がせていくこの男。僕は、理性を失うまでずっと、この男を殺したいほど憎んで睨みつけていた。
***
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