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二、分岐点②
***
許すことができない。彼らに非はなくても、口封じしたくて謝っているのであれば許す気持ちが湧かなかった。
父に母を頼み、利圭の病室へ向かった。
ベットの上で丸まって眠る利圭のうなじには包帯が巻いてある。
鏡に映った僕のうなじにも、包帯が巻かれている。
「……利圭」
布団に潜り込むと、利圭は丸くなって泣いていた。
「あいつが謝りに来たいらしい。来たら殺すって言ったけど」
「そうですね」
泣いている利圭を抱きしめた。背中をさすって、一緒に丸くなった。
「少女漫画って、所詮夢なんだよなあ」
はあとため息を吐いて、利圭はごろんろベットの上を転がる。
男二人でベットは狭いので、落ちそうになって二人で笑ってしまった。
その後、学校のカバンに忍ばせていた少女漫画を破った。
漫画には罪はないけど、しばらく見たくもなかったし心のバランスを保つためには、何かを壊して消してしまいたかった。
「親父がさあ、今、九州なのに急いで戻ってくるとか言ってんの」
「実は優しいんですよねえ、利圭のお父さん」
放任主義なのは、不器用だから。子どもが苦手だって言ってた。
利圭が生まれた日も、長距離トラックで仕事中だったのに大阪からトラックで駆け付けたって言ってた。
一度だけ、一瞬会ったことがあったけど、無口で静かでクマみたいに大きな人だった。
「別に、仕事優先しろって言ったけどさ。俺の話なんて全く聞かないで電話切れてさ」
破いた紙の山を両手ですくってベットの上から床へ飛ばす。
僕も真似して両手ですくって、口で吹いて飛ばした。
利圭に一つだけ救いがあってよかった。仕事で多忙な父親が、一緒に居てくれるなら傷が少しは癒えるかもしれない。
「未成年だから、親の承諾なしで番届は出せねえんだってさ」
「ふうん。でも僕の親は承諾しないだろうなあ」
番届って、オメガのヒート中にアルファが付き添うために仕事や学校が有休やら公欠になるとか、いろいろパートナーとして寄り添える制度を使うことができるらしい。でもヒートもない僕らにはそれは必要ないだろう。
「ああああ、面倒くせえ、殴り足らねえ。なあ、これ、見ろよ」
頭を掻きまわしていた利圭が、裸足でベットから降りると引き出しの中から小さな石を持ってきた。
いや、手に乗せられたのをよく見たら、歯だった。
「ひっ」
「ひひひ。レイプ野郎の口の中に手ぇ突っ込んで、引き抜いた歯。あいつ、今、歯抜けだぜ。下の歯だから下に投げてやろ」
窓から下に投げると、利圭は何事もないと笑っていた。
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