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二、分岐点③

「あいつは、卒業まで留学することになったらしい。だから俺は何もなかったように学校通う」 「そうなんですね。……僕は何も聞いてなかった」 「聞けばいいじゃん。CEOのじいさんが、こんなにお小遣いくれたぜ」  じゃーんと引き出しに札束を入れていた利圭は、札束で顔を仰いでいる。 「利圭……」 「俺たちはあいつらを誘っていない。俺たちに隙はなかった。防げなかった。自衛できる状況じゃなかった。そしてレイプはもう起きてしまった。犯罪者と被害者はもう覆せねえ。じゃあ、開き直るしか自分の心は守れねえよ」 「赦せるんですか、生徒会長を」  お金に頬擦りしながら、「まさか」と笑った。 「だが二度と恋愛はできないが、金に不自由ねえ。心以外は金でなんでも買えるからさあ」 「利圭……っ」  札束は、病室の備え付けの引き出し全てにぎっしり入っている。  その札束で仰ぎながら利圭は笑うしかできなかったんだ。  もう一度抱きしめると、「お前を好きになればよかったのに」と利圭は震えた声で言った。  ***  利圭は睡眠導入剤を飲み、鎮痛剤を打たれたあと眠った。  僕より体も小さく華奢だったので、少しだけケガもしているらしい。どこが怪我しているのかは聞かなかった。  そして、僕に謝罪がしたいと10分だけ面会を求めてきた男がいた。  廊下には両親もいる。向こうのご両親もいる。  僕もこの問題に向き合わないといけない。逃げてはいけない。 「……どうぞ」  窓の外はすっかり暗くなり、くっきり浮かぶ満月が、歯ぎしりしたいほど綺麗で憎らしい夜だった。  ドアの前で立って、中に入ってこない男は、整った顔が腫れて口の端が切れていた。  あれは僕は暴れた時の傷なのかなと、少し首を動かして眺めたら、彼は口の傷をなぞりながら首を振った。 「親父たちとじいちゃんから殴られた。薬を持ち出したことは、身内であっても書類送検するってさ」 「君の話をしに来たのなら、帰っていただけますか」  興味のない話。そんなことは僕には今関係ない。 「……一個だけ」  男は後ろで手を組むと、僕の父に腕を縛られた。  そのまま一歩、近づいてくる。その一歩の足音が大きくて、背筋が凍った。 「父さん、少しだけ二人でいいですか」  僕の言葉に驚きながらも、少しだけドアを開けて離れてくれた。

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