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二、分岐点④

「君はそこでいいです。僕も話があります」 「先に言ってくれ」  頬を殴られたせいか、初対面の時の傲慢なほどの自信に満ちた表情が見えない。相手も言葉を選ぼうと緊張しているのがうかがえる。 「言ってくれ? 僕は貴方と同級生ですか」 「……先に話してください」  下を向いて、意外と素直に言葉使いを変えたので、満足して尋ねた。 「生徒会長は、なんで利圭を番にしたんですか。ヒートに充てられたの?」  その言葉に、顔を上げて目を見開く。 「なに」 「いや、あ、いえ。てか、どうみても惚れてんじゃん。や、惚れてるんではないでしょうか。俺から見てもはっきり分かるんだけど」 「言葉使いが汚くて会話したくないんですけど」 「すみません」  生徒会長が利圭に惚れている?  惚れているから何。散々嫌われるようなことをしておいて、夢まで奪っておいてそれってなんだ。 「俺からも一ついいですか」 「ああ、どうぞ」  生徒会長がどんなつもりでこんな事件を起こしたのかだけが気になっていた。浅はかな行動はしないと思っていたから尚のこと。 「俺たちは、抑制剤を飲んでいました。無理やり番にするのが目的じゃなかった。信じてほしい」 「――は?」  利圭のことを聞けて、どうでもいいと思っていた。  なのにこの男は、何を寝ぼけたことを。 「ヒートさえ起これば、俺が運命だって気づいてくれるんじゃねえかって。征一郎もずっとあの金髪の先輩のことを運命だって思ってて気づいてくれねえから焦って」 「焦ってレイプした。運命だから薬を打っていいと思ってた。抑制剤を飲んでいたから大丈夫と思った。それは全て終わった後に言われても、ふざけているとしか思えないです」  もういいです、出て言ってください。  手を振って出るように促すと、彼は膝を折った。  土下座をするのかと眺めていたら、彼の真っすぐな瞳と情けなく下がった眉が対比的で、つい目を逸らせず見つめ合ってしまった。 「どうしたらあんたの傷は治る。レイプはしちまったけど、番として傍に居たいんだ、俺は」  馬鹿な男だなって。笑いさえも失せた。

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