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二、分岐点⑦
***
母は結局、実家に帰らず入院になった。
切迫早産になるかもしれないと、トイレ以外はほぼ寝たきりらしい。
母のお弟子さんが数人、慌ただしく呼ばれていた。きっと何人か指導を頼まれるに違いない。母が産休の間、華道のレッスンや提携しているホテル、式場での飾りつけもきっと誰かがすることになる。
僕も何か手伝えることがあればしたいんだけど。
無理やりヒートを起こされてしまった僕は、もしかしたらヒートが来ない身体になるあもしれないし、促されてしまいこれから定期的に来るかもしれない。
次にヒートが来るまで、定期的に検査しに行かなければいけない。
あの憎き沖沼病院へ。
「あ、壮爾くん来た!」
「体調大丈夫?」
一週間ほど休んでいた僕に対し、突然のヒートだったのだろうと周りは気にしていない様子だったのは安心した。
そもそも僕にヒートが来ていないなんて知らないんだから、あの事件も想像できないのかもしれない。
「ねえ、利圭ちゃんは?」
「もうすぐかな」
お父さんが九州から帰宅して一日一緒にいてくれたが、また仕事で出かけてしまった。
が、今日、有休を貰ってしばらく一緒に居てくれるらしい。
なので有休の間は休むと思う。利圭はまだちょっとだけ心が不安定らしく、夜は点滴していないと眠れないとか。
親友だと思っていたし、利圭は僕よりも強いと思っていたので、驚いてしまった。
「壮爾!」
カバンから教科書を取り出し、休んでいた間のノートを見せてくれるという女子生徒が数人、机の周りに集まっていた時だった。
息を切らして教室のドアの前で立っているのは、僕を強姦した番だ。
名前も呼びたくない。
「……壮爾?」
「壮爾さん」
素直に言いなおしたので、まあ今回は許してやる。
「学校来て大丈夫なのかよ」
「……君、三年の教室で突然なんですか」
邪魔だなって追い払て、クラスメイトのノートを貰う。
それでもその女子生徒の間に入って、僕の目の前にやってきた。
何を考えているんだ、沖沼家は。
せめて学校では接近禁止命令ぐらいするか、転校させておけ。
「あんたが、好きだ」
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