21 / 91
二、分岐点⑧
彼の空気を読まない発言に、教室中がざわめいた。
今まで色恋沙汰に全く縁がなかった僕だから、珍しいのか皆の視線が僕に注がれた。
「なに? なんで驚いてんの。この人、綺麗じゃん」
「綺麗じゃなくて、女っぽいおかまみたいな顔ってことでしょ。そりゃあ、おかまみたいな僕に告白する君は気持ち悪いでしょ」
「はあ? あんた、それまじで言ってんの。そりゃあこんな勘違いしてたらその年まで童--」
彼が何を言おうとしているのか分かったので、足を蹴った。
悪かったね。童貞を卒業しないまま、僕はのうのうと君にレイプされましたよ。
「男とか女とか、運命の番の前では関係ないっしょ。この人は俺の運命だから」
きゃーっと黄色い声が上がる。
なぜだ。
こんなレイプ魔の歯の浮いたセリフなんて馬鹿らしいだけだろう。
なんで皆、僕の返事に聞き耳を立ててるんだ。
「……二度と話しかけないでください」
僕の言葉に、騒いでいた女子が固まるのが分かった。
こそこそと「酷い」とか「こんな格好いいのに」と何故か僕への批判の声まで聞こえてくる。
「いやだね。あんたに誰かが手を出さないよう、絶対に離れねぇから」
自分勝手な発言に、わなわなと両手が震えた。
どんな意見や影口を貰ってもかまわない。この反省のはの字も知らない恥知らずを、殴ってやりたい。
「仕方ねえだろ。止まんねえんだよ。運命ってのは、そんなもんなんだって」
「うるさい、うるさいうるさい」
「俺は、この男が世界で一番――」
「宥一郎」
教室に飛び込んできた生徒会長に頭を拳骨で殴られ、大げさに頭を押さえる。
「ってぇえ」
「壮爾くん? 大丈夫?」
生徒会長まで教室に入ってきた瞬間、カタカタと震える自分の肩を押さえた。
「顔が真っ白よ」
「大丈夫?」
「病み上がりなのに無理しないで」
「ごめっごめ――」
こんな場所で吐きたくないのに、体中を恐怖が支配した。
憎いのに。大嫌いなのに。身体はあの日、凌辱された記憶が刻まれているんだ。
「……調子に乗って悪かった」
ともだちにシェアしよう!