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二、分岐点⑨
震える僕に、ブレザーの上着を頭からかぶせると、急に抱きかかえられた。
「っや、はなせっはな」
「保健室へ連れて行くだけだから。俺は触ってない。生徒会長」
「もっと嫌だ。離せ」
教室から出て人気のいない階段の踊り場まで来ると、やっと解放された。
しかし下ろされても、腰が抜けたのが座り込んでしまって動けない。
「告白からやり直そうと思ったんだ。悪かった」
「……敬語の意味も忘れたのか」
「申し訳ありませんでした」
「俺もすまなかった」
生徒会長とこの男が僕に頭を下げている。頭を下げても、到底許してやれる気分ではない。
けれど、もし。
この男じゃなかったら。
もしヒートを無理やり起こされていなかったら。
少なくても少女漫画みたいな告白だったのは滑稽だ。
「運命なんて信じてるんですか?」
クスクスと笑ってやった。
驚いて二人が僕を見ているので、首を傾げてやる。
「運命なんて、少女漫画だけでしょ。本当に運命なんてあったら、オメガがレイプされるはず、ないんですから」
運命なんて、本当は御伽噺ですよ。
諦めるんだ。
夢を見るのはやめるんだ。
そうすれば自分の心は守れるのだと分かった。
「それでも、あんたはやっぱり俺の運命だ」
寝ぼけた馬鹿の目を覚ますために、大きく手を振り上げ頬を打った。
暴力で抗っても、僕の項の傷は癒えないのに。
「好きだ」
「僕を想ってくれるなら、屋上から飛び降りてください」
僕の言葉に、目を見開く。
「飛び降りて、それでも足掻いてみっともなく生きてたら、信じてあげてもいいですよ」
そのまま飛び降りて消えてくれれば、僕は嬉しいけど。
素直な言葉を伝えると、彼がやっと止まってくれた。
僕がどれだけ君を憎んでいるか、分かってくれたらそれでいい。
「……運命にこんなに拒絶されると、胸が痛むんだな」
自分に酔った愚かな言葉だと思った。
「分かった。行ってくる」
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