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二、分岐点⑪

 無茶苦茶な僕の発言に、彼は飛ぼうとフェンスを乗り越え出した。 「いい加減にしろ!」 「あんたが飛べって言ったろ。飛べば愛してやるって」  ……。  いや、言っていない。勝手に解釈している。  僕の声に、ホームルーム前の教室から廊下へ顔を出してくる。  胸が痛い。  でもこの胸の痛みはどちらなのかな。  僕の痛みはこんな痛みで終わりじゃないのに。 「大丈夫。そこの茂みにジャンプすっから」 「赦す。君を赦すよ!」  そんな匂いをする君を、赦すよ。  僕の前から消えてくれるなら、赦す。死んでしまったと思うことにする。  赦すよ。  二度と匂いがする距離に来ないなら、赦す。  だから、そんなに僕の言葉で辛そうな匂いをしないでほしい。 「会えないのは、死んでると同じ事だから」 「お前っ」  屋上へ上がる階段を駆け上がっている最中だった。  一階へと落ちる大きな音。  確認する前に再び腰が抜けた僕は、階段を上がりきる前にその場に座り込んだ。  最悪だ。レイプされた上に犯罪者になってしまった。  憎い相手を、殺してしまった。  何もかもうまくいかない。 「……もしかして、番って相手の気持ちがちょっとだけ分かっちゃうのかな」  絶望していた僕の目の前の踊り場の窓から、よっと馬鹿が入ってきた。  泣いて座り込んでいる僕の前で自分の胸を親指でトントンと指さす。 「あんたが本当に俺なんて屋上から飛べばいいって思ってたの伝わってきてさ、すげえ辛くなっちゃった」 「でも飛んでないじゃないか」 「あんたが泣いている匂いがした。……無理やり番にした時みたいな、紫陽花が散っていく感じの匂い。悲しさで胸が窒息しそうで、急いできたよ」  自分勝手な奴だ。 「さっきの音は?」 「驚かせようと、椅子なげてみた。屋上に錆びた椅子が置いてたから」

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