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二、分岐点⑫
***
「……やだなあ。僕の気持ちが好きでもない番にばれちゃうの。最悪ですね」
「俺は助かる。あんたを傷つけてるか匂いで分かるからさ」
「あんたじゃない。敬語使え」
「じゃあ壮爾さんも俺を名前で呼んでよ」
なんでレイプ野郎なんかを!
そう思うのに、雨が止んだあとのアスファルトの匂いがした。
「沖沼くん」
ぱあっと晴れ渡るような青空の下、お日様の匂いだ。
「なんだよ、下の名前で呼ばないと従兄弟とわかんなくなんだろ」
そういいつつもくしゃくしゃに笑う彼は、年相応な年下の男の子の顔をしていた。
「生徒会長は、会長って呼ぶから」
「宥って呼んでよ。宥ってさ」
そこまで図々しくなれる君がある意味すごいなって思うよ。
関心していると、「香川くん」と僕を呼ぶ声に廊下の方へ顔を覗かせる。
すると長髪で白衣姿の男性と、その男性の腕にからみつく可愛らしい男性生徒がこちらにやってきた。
「なかなか来ないから心配したよ。駄目だよ。朝の診察に来てくれなきゃ」
「診察?」
首を傾げる僕に、優しそうな白衣の人は首からぶら下げていた職員証を見せてくる。
「君と津々村くんの当面のケアと診察を頼まれて、五月からここの保健室勤務になったんだ。沖沼零時って言います。よろしくね」
また沖沼……。
沖沼一族にはうんざりだなって顔に出ていたのか、彼の腕にからみついていた男の子が「大丈夫だよー」と舌足らずな声で言ってきた。
「零時は僕の番だし、婿養子だから」
ふわふわの茶髪の髪を掻き上げ、項を見せてくる。確かに歯形がくっきり残っている。
歯形ってこんなはっきり一生残るのか。なんか下品だな。
「妃芽之(ひめの)さんはいい加減に離れてください。君は、宥一郎くんたちの監視でしょう」
「下半身バカの監視ってなに? 番以外に興奮しないのは僕も零時も分かってるじゃん」
イチャイチャしだした二人を眺めつつ、どうしたらいいのか分からず動けずにいた。
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