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二、分岐点⑬

 ***  生徒会長は教室に戻ってもらったが、頑として帰ってくれなかった沖沼くんは、先ほど屋上から椅子を落とした件で職寝室に呼ばれた。  僕は保健室の冷蔵庫にプリンやアイスを入れ出した沖沼 妃芽之くんと、僕の体温を診察票に記録し始めた零時先生の前で座っていた。  できたら僕も教室に帰してもらいたかった。 「番の匂いがわかるってやつですね。初期症状で偶にありますよ」 「えーうっそ。あるの?」  アイスを食べ出した妃芽之くんに、ハンカチとスプーンを用意しながら、零時さんは自分の長髪を結びながら少し口ごもる。 「私も妃芽之くんが夜な夜な乱交パーティで朝帰りしていた時期、彼が汚い生き物に見えていたんですが」 「それ言っちゃう? だってさあ、ヒート中のエッチって誰でも気持ちよかったんだもん」 「まあ私たちの話は置いておいて。その時、あまりに彼の貞操観念が低かった時に、無理やり番にしたんですよ。彼以外の、ご両親や私の親は了承してたんで問題なかったんです」 「僕が了承していないんだから問題しかないじゃん!」  話が進まないと、口にアイスを突っ込んだ跡、零時さんは言いにくそうに話し出した。 「元々、親が決めた相手だって反発心があったせいで、番になった後も心の距離があってね。その時、心にバリアが貼ってたんだと思います」 「……心のバリア」 「香川くんは私と同じで頑固そうですからね。心で拒絶してしまう潔癖な人でしょう。でも番って一度繋がったパートナーでしょう。その心に近づきたくて、一番傷つかない方法で触れてきてくれたんだと思います」 「つまりぃ、科学的根拠ないんだけど、番の匂いが分かるって事例は沢山あるんでしょう」 「そうです」 「では僕が彼に心を赦したら、匂いも分からなくなるんですね」  これは一生ではなく一時的な心のバリアのせいか。  ではやはり彼に近づかなければ、良いってだけの話だ。

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