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二、分岐点⑰

 花を生ける前の水揚げは部員でするとして、剪定は一緒にしてもらおう。手が荒れるとか虫が怖いとかいう冷やかしにはおかえりいただけるだろうし。 「ねえ、壮爾くーん。宥一郎が女の子に囲まれている俺にヤキモチはないのーって」  他の部員と水揚げした花を仕分けしていたら、そんなつまらないことを妃芽之くんが言いに来た。 「仮にも僕を好きとか言っているくせに、女子生徒に囲まれて気持ち悪いなって言っておいて」 「うーん。それ、あいつ馬鹿だからヤキモチだと勘違いしそう。部活の邪魔して怒ってるって伝えてくるねー」  時間の無駄だ。  でも間に妃芽之くんが入ってくれるなら、ストレスが半分になるのかな。  廊下と部室の距離ぐらいでは、匂いは伝わってこなかった。  部室は現在の部員12人で少し広いぐらいで、そんなに余裕がない。本当に華道が好きな人は僕の実家に通っている人が多い。ここにいる人は、そこまで本格的な華道は苦手だが、内申書の為とか、趣味程度の人。僕もそれぐらいの方がリラックスできた。  そもそも僕も父や母の跡を継ぐべきか迷っていたし。  部活ぐらいでちょうどよかった。利圭は大げさに褒めてくれるし、茶道部から強奪してきた和菓子を食べながら空気を和らげてくれている。  今日は部活のあと、利圭の様子を見に行こう。病室でいい加減に暇していたし、ゲーム機とか家から持って来てやろうかな。 「香川っ」 「香川くんっ」  驚いて剪定していた椿の花が、ぱちんと音を立てて落ちていく。   ぽとりと床に落ちた椿が恨めしげに僕の顔を見上げていた。 「おど、ろきました。零時先生と生徒会長」 「病院へ。急いで病院へ向かいます」 「え?」  先生が僕の腕を掴むと、部室から飛び出す。 「妃芽之、あとは頼むな」 「はーい。どうしたの?」  僕も言われるがままだったが、次の言葉に耳を疑った。 「津々村利圭くんのお父さんが交通事故にあった」  ああ。  この世界には神様なんていないのかもしれない。

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