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二、分岐点⑱
***
先生の車で病院に向かったが、すでに病室には利圭の姿がなかった。
「津々村くんはどこですか」
零時先生が看護師や医者に確認を促す中、僕は利圭の病室の引き出しを全て開けた。
すると、あんなに入っていた札束が一つも見当たらない。
「零時先生、利圭のお父さんの容体は?」
利圭の携帯に電話をかけるが、ずっと着信音が響くだけ。
どこに行ったんだろう。
昨日、僕が退院する日は笑顔だったじゃないか。
お父さんが帰ってくるって、照れて喜んでたじゃないか。
「……スピードが出ていて、即死だったらしい」
「そんな」
「津々村さんは、利圭くんとの時間を作ろうと無茶なスケジュール組んでいたらしくて、荷物の賠償金もあるとかで、それを利圭くんが聞いていたのかもしれない」
「利圭っ」
病室の荷物を全て開けると、携帯は見当たらない。携帯だけは持って出たのかもしれない。
携帯と札束全てを持って利圭が消えた。
「……利圭は親戚が居ないって言ってた。身元引き取り人はうちの父に頼んでもらって、僕探しに行きます」
零時先生が頷くと、父に電話をかけてくれていた。
電話は切らないまま、病室から飛び出す。
利圭。
どこにいるんだろうか。自分を追い詰めないでほしい。
また一緒に華道部の部室で、お菓子を食べて笑って。
また一緒に、馬鹿な夢を見ようよ。
「香川、利圭の行きそうな場所は分かるか」
病院を出て行こうとしたら、バイクに跨った生徒会長が目の前に現れた。
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