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二、分岐点27
辛辣な妃芽之くんの言葉に、沖沼くんが少し口ごもるのがわかる。
「反省したらいいよ。僕たちは残念ながら壊れやすい子どもなんで」
「そうそう。なんだっけ、青春じだいってガラスの十代なんだって、おっさんの零時が言っててさ」
「……誰がおじさんだって?」
地下から上がって、クラブへ向かう通路で待ち構えていたのは、零時先生だった。
駅で別れたはずなのに、ここに気づいて出てくるには早すぎる。
「申し訳ないですが、私の番はピアスに発信機がついてて」
「は? こっわ。愛が重いっ」
「特定の場所へ侵入すると、私に通知が来るんです。例えば、合法パーティ会場とかね」
「てへ」
僕はバスローブ姿だからまだましだけど、妃芽之くんはノリノリで、ほぼ裸のような下着姿だ。零時先生の腕に絡みついて甘えているが、静かに怒っているのが分かった。
「貴方への罰は追々。今は津々村くんです」
先生の車の中で、抑制剤が効いてきたのは利圭は大量の汗を掻きながらも、意識を手放したかのように眠りだす。
電話で先ほどのクラスメイトから事情を聞くと、三日ほどあの地下で薬を打っては遊んでいたらしい。
おじさんが亡くなった直後から、ずっと眠っていなかったことになる。
「注射の跡、分かる範囲で探してくれますか」
運転しながら先生は病院へ指示をしている。
生徒会長はバイクで先に病院へ行ったが、助手席にいる沖沼くんがこちらを振り返る。
なので、僕はすぐに毛布で利圭を隠した。
「首筋には七つ。腕に一つ、あ、太腿もかな。噛み痕が多くてわかんないなあ」
「渡された薬は全部で10、注射器は八個転がっていたらしいです」
電話のむこうで、利圭が居なくなり正気になったクラスメイトが、数えてくれた。
その言葉に先生は息をのむ。
「まだ日本では流通していない上に、成長中の子どもに一度に何回も打ったなんて」
「利圭は大丈夫ですか」
ミラー越しに先生に尋ねると、顔が曇っている。
「私は嘘をつけない。――これから数年は治療が必要になるかもしれない」
「利圭……」
あんまりだ。
僕たちはただ、空き教室で少女漫画を読んで笑っていただけ。
ただヒートが来ていなかっただけ。ただそれだけだったのに。
たった一回の過ちで、家族まで失ってしまうなんて。それで親友が壊れてしまうなんて耐えられない。
「……出会わなければよかった」
悔しくて、自然と零れ落ちた言葉。
「勝手に運命だと決めつけて襲ってくるようなバカと、出会わなければよかった。出会いたくなかった」
苦しい。痛い。憎い。赦せない。消えてほしい。
様々な憎悪の感情が溢れる中、助手席から彼の心の匂いがした。
雨をひっくり返した夜のよう。朝が来ない真っ暗な夜に、雨で濡れるアスファルトの匂いだ。
僕と利圭は、どうしてここまで道が分かれてしまったんだろう。
また一緒に笑って、夢を見たい。夢が見れる世界へ戻してほしかった。
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