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三、免罪符と運命③
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それから何度か稽古場を覗きに行ったのだが、アルファが居るときはあの男は現れなかった。ただ一度、稽古場から離れた縁側で、花を活けているのを見た。
やはり甘く香る。一度眼でとらえてしまえば、香りに酔ってしまいそうだった。
指先まで艶っぽく、花を持つ手にさえ身体が反応してしまう。目を細めて微笑む姿が大人っぽく、そして穏やかで凛とした姿に、俺は完全に心を奪われてしまっていた。
もっとあの人が知りたい。
姉から名前を聞いた。俺より二歳年上。香川壮爾。受験する高校は華道部がある、家から一番近い場所。進学校とまでは言わないが、学力も低いほうではない。
親を丸め込んで、その高校を受験すれば近づける。
沖沼家は、血縁を大事にするところもあってか、高校は沖沼家所縁の私立に代々初等部から入学して、そこで能力に秀でた子どもを探したりしている。能力関係なく、寄付金が多い沖沼家の子どもは、色々目をつぶってもらえる場合も多く、安心できるのだと思う。
だから俺が特に理由もなく、家からそこまで近いわけでもない高校を受験したいと言ったらどうなるだろうか。
色々と策を考えていたのだが、先に動いたのは征一郎だった。
征一郎がエスカレーター式に高校へ入学するかと思ったが、俺が行きたいと思っていた高校へ受験すると聞いた。
あの不器用ながらも跡取りとして真面目一徹で生きてきた征一郎が、社会勉強のためと違う高校を受験。棚から牡丹餅だった。
「征一郎が行った高校へ俺も行きたい」
ただそれだけで、何も理由を考えなくて済んだのだから。
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