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三、免罪符と運命④
***
「熱がすごいな。抑制剤は一日三回、飲む薬ではなく座薬の方が良いかな」
ただ――。
ただ、俺は運命の相手だと思っていただけ。
相手は俺のことを全く運命とも思わず、視界にも入れようとしなかっただけ。
「津々村くんの保護者がいないので、香川くんのお父さんが話を聞いてくださるようなのですが」
零時さんが頭を抱えている。
例のホテルから連れて帰った津々村利圭の容態が良くないらしい。征一郎の話では、抑制剤を与えても、ヒート状態が続いていると。それで意識もない。
これからの治療や今の状況など状態が落ち着いてからの方がいいのだが、壮爾さんも憔悴しているらしいので、なんとか状況を打破したいらしい。
「佐伯さんが、身元引き取り人として名乗り出てくださってます。津々村くんの父親の友人です。津々村くんも佐伯さんなら大丈夫と思います」
「ロビーに居た人だね。呼んで来よう」
慌ただしく、人が右往左往している。
どうやら何度もあの薬を打ってしまい、薬が完全に身体から抜けきるまで、彼はヒート状態のままらしい。
火照る身体は抑制剤が効かないぐらい薬に侵されている。
薬が抜けるまで、身体を守るには、番がそばに居た方が良いらしい。番の香りや体温が、身体を安定させるとか。
「……地獄だ」
すすり泣く壮爾さんを見て、むちゃくちゃに叫びたいぐらい胸が痛かった。
俺はあんたをただひたすらに運命だと信じて、会いに来た。
ここまで泣かせて、ここまで傷つけて、何もかも壊すために会いたかったんじゃねえ。
ただ本能のまま、あんたに惹きつけられた。泣かせたかったわけではないのに。
意識も戻らない親友の津々村利圭を、征一郎が抱きしめてベットで眠る。
本人を追い詰めてしまった相手が番だったばかりに、こうなってしまった。
「壮爾さん」
俺があんたを運命だと信じていたのは壊された。そして、俺以外の人間は案外弱く、壊れやすいらしい。
二度と誰も壊れないよう、全力であんたの幸せだけを守りたい。
こんな状況でも俺は、どうすればこの人の傍から離れずにいられるかだけを考えていた。
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