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三、免罪符と運命⑤

***  Side:香川壮爾  利圭のお父さんの葬式はなんとか意識を保てていたものの、遺骨を前に利圭の体調は崩れた。ヒート状態の身体のままで、生徒会長が抱きしめて眠ると少しだけ身体の調子が良くなるらしい。本当ならば、セックスしたらヒートは治まるかもしれない。けれど利圭はまだヒートが来ていない未熟な体だったこと、それがトラウマになっていること。身体よりも心のバランスがクスれている方が問題らしい。  なのでヒート状態が収まるまで、生徒会長が24時間傍にいる。が、きっと本人はヒート中の記憶は飛ぶだろうから、誰がそばにいたかは説明してはいけないらしい 「彼のことは、時間が必要だから今日明日で治ることはないけどね、壮爾くん」  零時先生が、悲しそうに微笑むと僕の顔を覗き込んだ。 「君にもアルファの辛さについて、知っておいてほしい」  先生は、今回の事件を起こした沖沼くんと生徒会長のカウンセリングを行ったことを聞いた。 「二人は君たちに好意を持っていた。そして香りに惹かれていた。好意を寄せているオメガのフェロモンにアルファが抗うことは、難しい。無理やり発情されてしまったことは事件でも、アルファがオメガのフェロモンに充てられたことは事故と思ってほしい」 「……あれが事故」 「彼らは、オメガのフェロモンを強く受けてしまう体質みたいだな。まあ、沖沼家は代々そうみたい。だから抑制剤の開発を続けてきたんだ。彼らは常備、薬を飲んでいたらしいし」  気持ちでは許せない。  だがアルファさえ魅了してしまうオメガのフェロモンも原因。  オメガ側からフェロモンでレイプしてしまうことも少なからずあるらしい。 「彼らも抗えなかった。きっとこれから彼らも苦しむよ。君たちが傷ついているのが、匂いからも分かってしまうし」 「そんなの、事故が起こった後に言われても、後付けぐらいにしか感じません」 「愛する番に拒絶されるアルファの苦しみは、きっとオメガの君には理解できない。逆ももちろんね」  いやな性別だよね。  先生の声は悲しそうだった。  オメガの僕には、アルファの苦しみが分からない。  アルファの彼らには、僕らの痛みで苦しむ。  分かり合えないのならば、どうして僕たちは惹かれ合う性別なんだろう。  零時先生は、利圭のこともあるから僕のことは丁寧に診てくれている。  もし次にヒートが来るときは、まだ安定していないので沖沼くんを抱き枕にすることを提案された。憎む相手を抱き枕か。 「憎いなら憎くていいよ。どんどん彼を傷つけてしまいな」  でも壮爾くんは、きっとそんなことできないよ。  零時先生はまた苦笑していた。  ぐるぐるして気持ちが悪かった。被害者の僕は、アルファの痛みを分からない。ヒート中は彼を抱き枕にしていい。利圭の容態は安定していない。  ぐるぐるしている。  こんなに苦しい世界に僕は生きていただろうか。 「壮爾さん、診察終わったの」

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