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三、免罪符と運命⑥

 桜だ。  散っていく桜のような、寂しい気持ちが流れ込んできた。  舞い落ちた桜の名残が足元で、行く手を阻んでいる。 「なんかあんたの顔見ないと、落ち着かねえの。学校はいつから来るんだよ」  桜なんてとっくに散ってしまった四月の終わり。  なのに寂しそうに微笑む彼の周りには、散っていく桜の花びらが見えた。  フェロモンに抗えないアルファ。あれは事故。  頭では納得できても、心が納得できていない。 「まあいいよ。怖がらせたくねえし。帰る。学校で」    返事もしない僕を、数秒見つめた後、さっさと帰ってしまった。  答えなんて出ないまま。  *** 「えー。僕も最初は、玉の輿狙いのオメガが、沖沼家のおぼっちゃまを襲ったのかと思ったよ」  次の日、利圭と利圭をあのパーティに誘った二人のクラスメイトは休み。  行方不明だった利圭の入院に、クラスの空気は少しざわめいていた。居心地が悪い中、妃芽之くんだけが、いつも通りだった。  華道部の部室でお昼ごはんを食べながら、彼だけは呑気だ。  が、事件を聞いていた妃芽之くんは、オメガの狂言だと思っていたらしい。 「あの二人は沖沼家の御曹司でしょ。そんな二人が将来を考えてないわけないのに、男のオメガを襲って番にするなんてさ。ヒート中のオメガが襲ったんじゃないのって思ってた。まあ、君に会ってみて、全然違ったけど」 「そんなにアルファってオメガの匂いに抗えないの?」 「多分ね。体質によるけど。あの二人は特に抑制剤常備してるっしょ」  苺牛乳のパックを飲み干す姿が、可愛らしくてそしてあざとい。彼ぐらい魅力的なオメガならば、襲われても納得できるが、僕はそんなフェロモンを今まで出していた記憶はない。 「零時さんも、僕と番になってから、僕のヒート中のフェロモンに理性飛ぶらしいよ」 「あの零時先生が?」 「うん。番になって、煩わしかったフェロモンから解放されたのに番の香りはやばいってさ」  けらけら笑っているが、同調していいのか分からない。番になれば、番以外のオメガのフェロモンに反応しなくなるのは、アルファ側からしたら幸せなのかもしれない。 「トントン。壮爾さんいますか」  笑っていた妃芽之くんが、部室の扉を見て、急に無表情になる。  僕も扉の向こうに誰が居るのか匂いで分かってしまう。 「トントンって口で言うやつ初めてだよ」 「両手が塞がってんだよ! 壮爾さん、います? まあ居るだろうけど。開けて」    

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