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三、免罪符と運命⑧
嫌いたいのに。許せないのに。
お弁当は美味しかった。
憎むのは簡単で、目を逸らすのも簡単で、でもあの日の悪夢は忘れられなくて。
じゃあ、僕はこのまま目を閉じ耳を塞いで、明るく生きていけるだろうか。
運命の相手は諦めて、彼を好きになるかはわからない。
でも、誰かを好きになることは諦めなくて、これから頑張ればいいのかな。
オメガやベータの人を好きになったら、番なんて関係ない。
アルファの人を好きになったら、正直に告白して、番に慣れなくても好きになってもらえるように頑張ればいい。
少女漫画に夢を見過ぎたから、こんな惨状になった。
目の前の現実では、罪に苦しんで、お弁当を作ってくる人もいるんだから。
「……最近ね」
おにぎりをもう一つ持った。
こんな量、全然食べきれないけど。
「ゴム食べてるのかなってぐらい、ご飯の味がしなかったんだ。でも誰にもこれ以上心配かけたくないし、悔しいし」
「うんうん」
「……美味しい。……美味しくない方が嬉しいのに、美味しい」
悔しいな。
「あれは、悪意があるけど悪意がない事故ってことで、諦めるしかないのかな」
「悪意があるけど悪意がない事故ね、それいいじゃん。壮爾くんはまだやり直せるよ。……利圭くんはもう駄目だろうね」
苦笑してウインナー全て平らげると僕を後ろから抱きしめてくれた。
「利圭くんのためにも、壮爾くんには前を向いて頑張って歩いてほしいな。僕と零時さんで支えるよ。ご両親も心配してるし、君ならきっと大丈夫だよ」
お腹の中に、彼の作ったお弁当を放り込むたびに味が戻ってきて、周りの支えも見えてきて、いい加減うじうじしていてもしょうがないと思った。
将来、もし好きな女性が現れたら、恥ずかしくない自分で居ようと思う。
「うん。……泣くのはもう、今日で最後にします」
明日からまた頑張ろう。無駄な時間なんてこの世にはないのだから。
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