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三、免罪符と運命⑭
急いで袋を奪って瓶を一つ取り出した。
瓶の中の真っ赤なバラの花びらを見て鼓動が早くなった。
「えーやべえ。この赤いバラの花びらって花言葉とか関係ある?」
「お前の頭がやばいだろ。勘違いしない方が良いよ。壮爾くんは自分の為に、あと周りの家族や利圭くんのためにお前を赦そうとしてるだけ。お前のことは番としての情しかないよ」
「……んなの、わかってる」
花弁なんかくれると期待してしまうじゃん。
期待……。
瓶を開けて花びらを舌の上に乗せると、草っぽい味。あと角砂糖みたいなシャリシャリした触感。口の中で広がる甘い匂い。お世辞にも美味しくないし、好きな味ではなかった。
それなのに、飲み込む瞬間、甘酸っぱくて涙がこぼれた。
そうか。
俺は期待してしまった。
壮爾さんと恋愛がしたいんだ。恋愛がしたい。
初めて会った瞬間に感じた運命を、忘れられない。お互いに惹かれ合って、そして俺の気持ちを受け入れてほしいんだ。
あの人を好きになりたい。
あの人を好きになることを赦してほしい。
――やめっ
――もう、やめ、て。
すすり泣く声は、嬌声にも似ていて、漏れる声の色香に止まらなかった。
肌が触れ合うだけで、セックスを覚えたばかりの猿みたいにしがみついて腰を振っていた。
あの人が泣いていても、止められなかった。止めたくなかった。
同じ気持ちで抱きたかった。
「あのさあ、僕が泣かせてるみたいで気持ち悪いんだけどぉ」
妃芽之は自分の髪をくるくるしながら、ため息を吐く。
「仕方ないじゃん。ヒートしたオメガにはアルファは逃げられない。あれはレイプじゃないんだよ。そんなの、誰だってわかるよ。ただお前は無理やりヒートさせた分最低だけどさ」
瓶を奪われて、紙袋の中に戻すと俺の手に握らせてくれた。
妃芽之は口うるさくて面倒だけど、壮爾さんと同い年だけあって大人な部分も多い。
「応援はしてあげれないけど、二度とお前たちが間違えないように監視はしてやるから」
「……余計なお世話だけどな」
だが悪いこともない。これからできることもある。
「とりあえず、お前ちょっと付き合えよ」
「えー。セフレは無理だよ? 零時さん、精液の濃さもチェックするんだから」
「じゃねえよ。お菓子作る材料買うんだよ」
「ふうん」
口の中で転がすように、相槌を打つと、俺の腕に腕を絡ませてきた。
「お前がお菓子作るとか、かーわいい。エッチする?」
「数秒前の自分の言葉を思い出せ、ばか」
だれが従兄弟とセックスするか。面倒くさい。
愛のないセックスはもう二度としねえんだよ。
「バラの花びらを入れたお菓子って何がいいのかな。検索してあげるからお姫様抱っこしてよ」
「おらよ」
妃芽之を米俵のように担いだまま、深夜まで開いているスーパーへ急いで向かった。
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