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四、すれ違い、見つめ合い③

 父がお菓子をちらちら見せてくるので全部没収しておいた。明日、始発で母の見舞いに行くのだから早く寝てほしい。 「シオン、詩音、紫苑、どれがいい?」  しりとりではなく、名前は既に決まっているようだ。疲れるからこれ以上は父の話は相槌だけにしとこう。  こんなに甘えてくる父は久しぶりなので、きっと父なりに僕を心配してるのか母が心配で疲れているのかもしれない。  なので、次に妃芽之くんが送ってきた画像は、翌朝本人と共に確認することになった。  ***    Side:津々村利圭  懐かしい香りだった。甘くて、胸を焦がすような香り。抱きしめられて包まれるような香り。その香りに包まれた夜は、身体が落ち着いていた。  翌朝、俺の身体はヒートを終えていた。  あの香りはなんだったんだろう。  ヒートの俺につきあって散々精を搾り取られ、ソファで倒れているこいつではない。こいつの匂いや香りより安心できる香りだった。  ヒート中、飯もろくに食わず、その前も父さんの事故のショックから飯なんて全く食えていなかった俺は、骨と皮みたいに痩せこけていた。  点滴打たれて、体中痛くて動けない。 「……おい」  俺のせいでぐちゃぐちゃになった制服を紙袋に片づけた生徒会長が、俺に背を向けて着替えている。  病室から出て行こうとしているその背中にはまだ用事があった。 「おいってば。散々抱かせてやったんだから、明日までに百万用意しとけよ」  俺が投げかけた言葉に、こちらを振り返った。 「君をお金で抱く気はない」 「じゃあ、月百万、慰謝料払えよ。お前の家、金持ちだからできるだろ」  点滴していない右手を持ち上げて、手をグーパーと開くとまだ痺れている。はやく体力回復しなきゃ、壮爾だって心配するだろうし。 「お前が払わねえんなら、お前の祖父? ここの院長は父親だっけ。まあ、沖沼家の誰かに請求するからいいか」  喋るのも怠いから、さっさと眠って体力を回復しようと目を閉じた。  なのに生徒会長は、真新しい制服に着替えて俺の枕元に立ちやがった。不気味な奴だ。 「ヒートが来たら俺が傍に居れば多少は症状が抑えられる。だから、俺を利用してくれるならいつでも連絡してほしい」 「……じゃあ、月百万の契約でいいんだな」  目を閉じたまま返答すると、しばし沈黙したのち小さく息を飲んでいた。 「月いくらでも払うから、俺と結婚してくれないか」

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