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四、すれ違い、見つめ合い④
「なんで?」
あー。馬鹿らしい。てか馬鹿。消えてほしいぐらい馬鹿。
俺は父親の葬式にさえ顔を出さなかった糞野郎だけど、お前は何度殺しても足りないぐらい憎い相手だっての。
「俺は君に惹かれている。そして番になった。そして今の状況、俺にチャンスを」
「お前と結婚しなきゃ生きていけないのなら、死んだほうがまし」
お前は、俺がこれから生きる上での金蔓だ。
一文字一文字区切るように伝えたが、表情が変わらなかった。
もっと喜怒哀楽が浮かぶ顔だったら面白かったのに。全然、その顔じゃあ何を考えているのかわからねえ。
「お前には、金しか用がねえよ」
もう一度伝えると、なぜか頷かれた。頷くんじゃなくて、もっと反応しろよ。俺を憎めばいいし恨めばいいし、好きなら金で表せてくれていいのだけど。
「学校に行ってくる」
何も返事をしなかったが、ドアが閉まるとともに俺は意識をてばなしたかのように深い眠りについた。
まるで走馬灯のように、父さんとの思い出が浮かんでは消えていった。
ほぼ仕事ばかりで家に居なかったせいで、思い出なんて数える程度しかない。
一緒にランドセルを買いに行った日や、半額のシールが張ったケーキを持って帰ってきた深夜のクリスマスとか、コンビニの弁当を、お弁当箱に入れ直して遠足の用意してくれていたりとか。
数少ない思い出の中、父さんが仕事を終わらせて俺に会いに来ようとトラックを加速させる様子が思い浮かんでは消えていく。
俺がこんなに心配かけるようなことしなければ、父さんはまだ生きていたのに。
何度も何度も、記憶を思い出しては父さんがトラックで駆け付ける様子が脳裏から離れない。
二日以上気を失うように眠る中、何十回もその映像が頭の中を支配していた。
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