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四、すれ違い、見つめ合い⑦

「表面に飾ってオーブンにいれたんだけど、膨らんでいるうちに下に沈んだって言うんだよ」 「えー」 「多分、一緒に混ぜたんだと思うけど失敗を認めたくないんじゃない? いやだねえ。自分に甘い男って」  妃芽之くんは嬉々として彼を弄っている。普段からかわれることがない彼からしてみれば、きっと悔しいはずだ。 「まあ、嫌なら作らなければいいよ」  だから僕もやんわりと傷つける。僕にこんなこと言われたら、絶対に彼が諦めないとはわかる。  彼から燃え上がるやる気が伝わってきた。これは匂いにまざって彼の感情が見えているのかな。  どんなに拒絶しても、距離をおいても、酷いことを罵っても、彼から僕を嫌う匂いはしてこなかった。 「妃芽之くん、そろそろ利圭のお見舞いってできるのかな」 「零時さんに聞いてみようか。僕、彼とはまだコミュニケーション取れていないんだよね」  腹黒くて天真爛漫な妃芽之くんと、純粋で少女漫画大好きだった利圭は気が合うのかな。  お互い竹を割ったようにさっぱりとしているとは思うけど、どうだろう。 「お、沖沼くんみっけ」 「沖沼くーん。お菓子の雑誌沢山持ってきたよ」  屋上の入り口に、二年生の男子や一年生の女子が次々やってきた。彼は僕にタッパの入った紙袋を押し付けて、すぐにそちらへ向かう。  妃芽之くんが紙袋を代わりに持ってくれた後、取り囲まれている彼を見て鼻で笑った。 「宥一郎ってバスケの強化選手なんだって。でも高校では部活に入らないって言うから連日のように勧誘されてるんだ」 「せっかく上手いなら部活すればいいのに」 「ねー。スポーツで性欲発散すればいいのに」  ……。妃芽之くんはせっかく可愛らしい顔なのに、言葉が直接的すぎる。 「で、お菓子の本を丸暗記していたときに女子に見つかり、あんな感じ」  紙袋二つには、お菓子のレシピ本がたっぷり入っている。 「ベータとかアルファの女子には、まだ宥一郎に番が居るってわかってないねえ。あいつもこんな状況じゃ高らかに宣言できないし、当分はモテるんじゃないかな」

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