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四、すれ違い、見つめ合い⑧
確かに彼の周りの女子からの視線は熱い。
僕と利圭はさっぱり女性から意識されたことがないのに、圧倒的だ。
「あんなにモテるなら」
僕じゃなくて良かったのに。
「ね。僕も零時さんに会う前はそう思ってたんだよ。僕、可愛いから石油王の愛人になれるんじゃんって。愛より、自分の美貌で上り詰めれるんじゃんって」
妃芽之くんと僕の思っていることは全く違っている。
あんなにモテる人がどうして、あんな馬鹿な真似をしたんだとまたスタート地点に戻ってしまうので、口を噤んだ。
「モテるから、狩りの腕がなかったってことだね。寄ってくるのを適当に食べればよかったから。それよりさ、宥一郎のお姉さんが、まじで石油王の」
なるほど。
確かに、狩りなんてしなくていいよね。適当に女性が寄ってくるんだから。
持たされたタッパに視線を移しながら、まだ迷いがあった。
ケーキなんて作ってくれる女性が沢山いるし、もっと美味しくて高級なケーキを食べているような男だ。
「壮爾さん」
急に振り返った彼は、僕の方を見て焦っている。
匂いが少し緊迫しているように思えた。
「――なに?」
「俺、まじで貴方だけなんで」
――は?
隣で再び笑い転げている妃芽之くんが視界に入ってこないぐらい驚いてしまった。
「や、なんかすげえ、冷たい視線というか匂いだったから。俺、バスケも興味ねえしあるの壮爾さんだけだし」
その瞬間、彼の周りにいた女子が悲鳴を上げる。
必死でアピールしている相手が、そんなことを言えば確かにショックだろう。
女性の気持ちもわからないのか、分からなくても問題ないのか。
「ちょ、その冷たい匂いやめてって。あーも、お前ら、散れ、部活も入らん」
当の本人は見当違いのことで焦ってる。僕が呆れているのは、そんなことじゃないのに。
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