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四、すれ違い、見つめ合い⑨
「僕を理由にしないでほしい。本当にバスケに興味がないなら真摯に気持ちを伝えるべきだし。女性に言い寄られても適当にあしらうのは失礼だ」
「そーだそーだ」
面白がってる妃芽之くんのことは僕も彼も視界に居れないまま、彼は僕の目を見て息をのんだ。
「……どうしたらいいのか、わかんねぇんだよ」
ため息のように本音を吐いた彼は、髪を掻き上げる。
「あんた以外に今は何も見たくねえ。拒絶されても、嫌われてても、今はあんたの事しか考えられねえんだよ」
「ばっ」
番だとバレてないにしても、その発言は逆効果だ。
さらに色んな噂が流れてしまうに違いない。
***
「保健室には、ショックで授業に参加できない女子生徒や、男子生徒がベットを占領して大変でしたよ」
僕の体温計を受け取り、カルテに記入しながら零時先生は笑っていた。
「えー、宥一郎って男にもモテるの」
零時先生の膝の上に乗って甘えている妃芽之くんを簡単にあしらいつつ、僕の方を見る。
「壮爾くんに淡い気持ちを抱いていたことにようやく気付いた男子生徒達です」
「え……」
「壮爾くん、アルファにモテそうだもんねえ」
複雑だ。自分はずっと女性と恋愛すると思っていたから男性は恋愛対象外だった。
す、少しは女子生徒で僕のことを想ってくれててもいいのに。
なんて思いつつも、目立った成績でも運動神経でもない僕を見てくれる人なんていないか。
「宥一郎くんは、どうしたんです」
「ああ。うるせえからって帰ったよ」
「彼らしいね」
先生のくせに怒る様子もなく、たった一言で片づけてしまった。
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