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四、すれ違い、見つめ合い⑪
「俺さあ、運命の番相手に出会ったかもしれないらしい」
入院している利圭にお見舞いに林檎を持ってった日。
驚いて床に林檎を落としそうになって、利圭が必死で受け止めてくれた。
床に伸びた腕は、まだ折れそうなほど細いのに、利圭の顔は生き生きしている。
「運命の番って」
「俺さ、ヒートが止まらなかった日、すげえいい匂いに包まれたんだよ。懐かしいような泣き出したくなるような。で、翌朝ヒート治まってたんだよ」
運命の相手。
キャッチした林檎を、引き出しから取り出したナイフでどこから切ろうか色んな角度から見ている。
利圭に刃物の所持が許可されているということは、利圭は今は安定しているようだ。
運命の相手に会えたから、気持ちが和らいだのかな。
「まあ、俺の病室の前をうろうろできたのは数人だろ。すぐに分かるだろうけど、分かったところで仕方ないじゃん。だから探す気はないんだ」
「いいの?」
「ん。今は恋愛に興味なし。佐伯のオヤジもうるせえし」
結局利圭は、佐伯さんの家に引き取られることになるらしい。
うちの父が何度か佐伯さんと話し合ったが、父も佐伯さんなら安心できると言っていた。
熊みたいな豪快な人だったから、利圭もうちみたいな華道の家元よりも、元から興味があるバイク屋の知り合いの家の方が安心するだろうってこと。
「なあなあ、俺、臨時収入入ったからゲーム機買おうぜ。入院中、通信でゲームしよう」
「え。ゲームはやったことないよ」
「俺もない。なんかあ、アニマルセラピーがいいっていうから、動物育てるゲームとかでもいいし」
機嫌がいい利圭に、聞きたいことは山ほどあったけど、楽しそうなら今はそれでいいのかな。父の仕事の手伝いをしているから、お小遣いは結構あるので、利圭が買おうと言っているゲームは買えそうだった。
「そういえばさ、すげえビッチ臭いオメガ男がお見舞いに来たんだけど」
「ぶっ」
思わず吹き出してしまったけど、それだけで分かってしまう僕も僕だ。
「先生の番で、俺とお前のボディガードとか言ってたなあ。面倒だから要らんって言ったら『淫乱じゃないよ』って言ってた。馬鹿か」
……実に彼らしい。でも利圭には鬱陶しかったようだ。
真面目にしていたらいい人なのに。
けれどその日はずっと利圭は機嫌がよく、運ばれてきた夕ご飯も美味しそうに食べていて、安心できた。
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