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五、転がる石には苔が生えぬ①

*** 「何もしない。神に誓って何もしない」 「……」 「えっと、あれだ。あれ買ってくる。貞操帯」  ていそうたい?  怪訝そうに首を傾げると、わざわざ携帯で検索して画像出してくれた。  うわ。なかなかグロい。これをつけてる姿はなかなかにシュールではないかな。 「……毎日つけてたら安心だね。では」 「本当になにもしない!」  朝一番に校門の前で待っていたと思えば、いきなり家に来てほしいと言い出した。  この人、馬鹿なのかな。  僕がこの人をなぜ信用しなければいけない。二度と信用もしない。 「妃芽之くんがいるなら行くけど」 「妃芽之は昨日の夜からヒートだよ」 「あれ、じゃあ零時先生は?」 「零時も休み。お前の体温管理は征一郎のオヤジが来るって言ってた」 「ふうん」  わざわざ院長さんが来るのはすごいことだ。  靴箱まで着いてくるので、片手でしっしっと追い払った。 「だったら、香川家にお邪魔させろよ」 「……父に殺されたいのなら、どうぞ。花の手入れに使う道具って意外と鋭利だよ」  僕と彼が学校でこんな風に会話してるってわかったら、転校させられるかもしれない。  今は母のことが心配でそっちを優先にしてもらっているが、気づかれたら僕だって止められない。 「えー。だって壮爾さんにだけ見せたいんだもん」 「貞操帯を? だったらお断りだけど」 「違うし!」  粘るなあ。迷惑だなあ。億劫だな。  なんて匂いを発していたのだと思う。しょんぼりと耳と尻尾が項垂れるのが分かった。  でもそんな表情や匂いでアピールしてきても、僕も二度と油断しないと決めている。  妃芽之くんや零時先生がいない今、彼と二人っきりになるリスクを犯すつもりはない。 「うーん。壮爾さん、頑なだからなあ。どうすっかな」 「諦めるのが良いと思いますよ」  唸りながら考えている彼を横目に教室へ向かうと、「そうだっ」と叫んだ。 「二階のカフェ、貸し切りにする。そこに放課後デートしよ」 「は? なんで僕が。てかどこの二階? 貸し切りなら意味がないでしょ」  大体、なんで家まで行って貞操帯を見せられないといけないんだ。 「大丈夫。オメガ専用カフェがあんだよ。じゃあ、放課後な」 「いい加減に」  言ってしまった。  拒否されたくなくて、僕の言葉を最後まで聞かないように全力で走って行ってしまった。

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