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五、転がる石には苔が生えぬ②
「香川くん、体調はいかがですか」
「副院長さん」
てっきり院長の方が来ると思っていたが、オメガの副院長の方が来ていた。
真面目そうだが、柔らかく笑う綺麗な人。生徒会長と同じブランドの眼鏡だが、表情が豊かな優しそうな人だった。
土下座して謝っていた時は頭のてっぺんの項しか見えていなかった。
「……彼にデートに誘われたんですが、断らせてくれなかったんで、副院長さんから断ってもらっていいですか」
「もちろん注意しますが、あの子は誰の話も聞かないと思います。今は君のことしか考えていない」
はあ、とため息を吐いたのち、窓を見た。朝練を終えた部活生たちが部室から出ていくのが見えている。
「すみません、うちの征一郎は……」
言葉を探しながら、表情を迷わせた。
「自分が悪いの一点張り。責任を取って結婚するしか言わない。津々村くんの痛みは、うちの息子に届かないのでしょうか」
「馬鹿にしてますか。僕に分かるはずないでしょ」
利圭は僕以上に傷ついている。親がこんな弱気で、被害者の傷口をえぐるような発言やめてほしい。
「気持ちを伝えるのが下手なせいで相手を傷つけているのに気づかない……。それなのに息子はもし利圭くんの言動に傷ついていたら、自分勝手だなって思うんですが……親にも感情を見せないからどうしたものか」
……帰っていいかな。ふざけすぎている。
「私と主一郎さんが運命の番だったので、もっと番に対して考えて行動してくれると思ってたんですがねえ。言動がどうしても納得できなかった」
「帰ります」
「もしかしてうちの息子は――津々村くんの運命じゃないと気づいてしまってたのかな」
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