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五、転がる石には苔が生えぬ③

 それなら全て辻褄があうと副院長は言ったが、僕はそれを聞こえなかった。聞かなかった。知らない。  もしそうだとしたら、彼は僕と利圭のために受診を薦めた時から騙していたことになる。  これ以上、人の汚い部分を見て幻滅したくない。 「そうだ。もしかして宥一郎は紫野さんの会社のカフェでデートって言ったんじゃないかな」 「……カフェでデートとは言ってしました」 「彼の祖母が経営しているオメガの人たちだけが働いているカフェがあるんです。利圭くんも紫野さんとはやく会って彼女の会社を見てほしいな」  紫野さんか。  そういえばCEOと院長、副院長は土下座した場にいたけど、宥一郎のご両親と祖母はいなかったかもしれない。 「一応覚えてはおきますが、僕は行きません」  頑固なる意思で、拒否すると副院長はなぜか苦笑していた。 ***  Side:津々村利圭 「退院後、アパートに戻るか。俺の家に来てもいいぞ」  熊みたいに大きな佐伯さんが、パイプ椅子に座っている。座っているだけなのに、話す度に椅子がみしみし鳴っている。  ソファに座ればいいのに、遠慮しいだ。  俺が目を覚ました時、鼻水と涙でぐちゃぐちゃな顔だったし、「ベータだからお前の気持ちわかんなくてすまん」とか暑苦しいし。  おまけにバイク屋の借金全部払ってやるって言うのに拒否しやがって。 「今まで通りで大丈夫だよ。もうすぐ十八だしよ。でも佐伯さんの店でバイトはしたいかな」 「おお、いいぞ。お前と気が合いそうな馬鹿ばっかだ」 「馬鹿は余計だ」  そしてちらりと時計を見ると、やっと気づいてくれたのかパイプ椅子から立ち上がった。 「すまんな。長居しすぎた」 「いいよ。また来てよ。次はエロ本お土産して」  軽いげんこつを頭に受けつつも、佐伯さんが帰った。  ――よし。  よしよしよし。  デリヘル来るまであと十分。おっさん臭いにおいを換気しとかないと。  いやあ、まさか沖沼病院のくそどもも、高級な一人部屋の病室にデリヘル呼ぶとは思わないだろ。  向こうも金額上乗せしたら、二つ返事で来てくれることになったし。  やっぱ男とセックスしてしまった後は、女と清めないといけない。

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