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五、転がる石には苔が生えぬ⑧
痣みたい。もとから利圭は色素が薄いので肌も弱そうだけど、はっきり残っている。
驚く僕に対し、利圭はあっけらかんとしている。
「ああ、ヒート促進剤使いすぎて、ヒートがしばらく収まらなかったじゃん。番のちんこ使ったんだ」
「使った!?」
「まあな。俺も壮爾も、金ある番で良かったじゃん。で、たまにちんこ使ってやれば満足するだろ」
利圭はそう言ってはいるが、つまりヒート中、ずっと生徒会長と?
「それって愛あるセックス?」
驚いた僕に対し、利圭は引き出しから札束を出してキスした。
「あるよ。お金には」
「利圭。確かに彼らを僕たちは許したくないけど、でも」
「壮爾、それ以上、俺を追い詰めないでよ。性病移すよ」
「……修学旅行の時に日光東照宮で見た猿みたい」
見ザル言わざる聞かざるってやつ。
利圭は今、何を言っても追い詰めてしまいそうで躊躇う。
でも自分で働いたわけではないお金で浪費するのはいかがなものか。
「で、性病ってなに。この鬱血痕?」
「そんなにひどいかな」
「うん。斑模様だから食物アレルギー出た時みたい」
「なあんだ」
性病じゃないのか、と安心し出したのでナースコールを押してやった。
すると看護師長が飛んできたので、利圭と取っ組み合いになりながら説明した。
こんなことで僕を病院まで呼びつけたんだから、それぐらい当たり前だ。
「わかりました。見てあげますねえ。津々村くん」
「いやあ、婆がセクハラするぅ」
「じゃあ男性の医者を」
「もっとやだな」
我儘な利圭を看護師長が淡々と説教しているのはシュールだった。
……まあ別に何も用事はない。約束は何もなかった。だから僕が気にする必要はない。
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