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五、転がる石には苔が生えぬ⑬
零時先生が妃芽之くんを締めつつ、僕の方を見た。
「保健室の冷蔵庫に、チョコが入っているみたいですよ」
「……へえ」
それ以上は何を言おうか悩んでいるようだった。
「先生も妃芽之くんも、過保護というか……なんで皆、彼を庇うのかなって」
「僕は宥一郎も征一郎も庇わないよー」
「でも他人がしゃしゃり出すぎですよね」
ため息が漏れると、先生は苦笑しつつ「冷蔵庫の件は忘れていいよ」と言われた。
彼が監視されていて、何かヘマをするたびに僕の顔色を皆がうかがう。
事件が事件だけに仕方がないんだろうけど、何ていうのだろうか。
僕と彼が対等な立場ではない以上、やはり距離が縮まらないってこと。
どうしていいのかわからない行き場のない思いが、どうしても近づくのを阻んでいるってことかな。
これ以上は何も聞きたくないとオーラを出したら、二人は空気を読んで黙ってくれた。
ただ、零時先生が渡してくれた二週間分の体温を見ると、段々と平熱が上がってきているのが分かる。
一週間以内に、ヒートが来るかもしれない。
抑制剤を飲み始めることをおすすめされ、ピルは親の認め印さえあればすぐに飲めるという。
「ヒート中って、どんな感じなの」
教室に戻って妃芽之くんに聞くと、彼は顔を破綻させた。
「理性が消え去って、いつもより敏感だし全身が性感帯」
「……じゃあ、好きでもない相手としたくなるの?」
「どうだろうねえ。番が出来た今、零時さん以外に興味ないけど、昔はまあまあ、そんな感じだった。誰でもいいから、はやくちょうだいってかんじ」
まあ、彼はそうだろうな。あのクラブでの地下の場で遊んでいたみたいだし。
教室を見渡すと、何人か僕と同じ首輪をしている生徒がいるし、アルファもベータもいる。
彼らはとっくにヒートが来てるらしいので、普段どうなのか聞いてみたい。
「そういえばさ、宥一郎が女の子の取り巻き追い払ってるらしいよ」
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