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六、運命交差 ③
そういや、生徒会長の顔なんてまじまじと見たことなんてなかった。
いっつも顔を合わせれば、嫌味か大げさにため息を吐いて見下してくるから。
俺はこいつが大嫌いで、むかついて、視界にも入れたくなかった。
そんな男が、俺の目の前で面白い表情をしている。
何か言いたくて、言えなくて、自分から視線を泳がせている。
いっつも俺をまっすぐ見つめて逸らさなかった男が、俺から視線を泳がせている。
「お前さあ、そのババアと俺が運命の相手ってわかってて、レイプしたわけ? そこまでして、俺が良かった? 俺の人生めちゃくちゃにしても、自分の欲望が優先だったわけ?」
看護師長が俺と生徒会長の顔を交互に見て、顔色を変えた。が、こいつが俺たちの個人情報をべらべら喋るようなババアではないのは分かっている。
「さーいてーいっ」
最低だし、俺の運命の相手がババアで既婚者ってのも最悪だし、あの匂いも大嫌いだ。
ここまで全て最低なんて、俺は一体、前世で何をしたんだろうと来世に賭けたくなってしまう。
未来に展望なんてもてねえよな。
「さっさとお前も、お前も出て行けよ。一人にさせろよ」
追い払うと、生徒会長は引きずられながら病室から出ていった。
何回も肌を重ねているのに、生徒会長の匂いは分からねえ。
だが、まだかすかに残る運命の匂いに、身体が蕩けてしまいそうだった。
どこまで俺は沖沼家に因縁があるんだろうか。
月二十万か、既婚者の運命の相手と面談をするか。
天秤がどちらに傾くかは、俺自身さえまだ決められていない。
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