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六、運命交差 ④
Side:香川壮爾
今日は稽古が休みなので、母のお見舞いに行こうかと話し合っていた。が、利圭も退院だと知り、先に利圭のもとへ行こうかと予定を変更しようと父へ連絡した。
靴箱で父から連絡が来ていないか確認していると、零時先生が保健室から手招きしている。
「なんでしょうか」
「これ、もう捨てちゃうよ」
保健室の冷凍庫から出てきたのは、ラッピングした小さな箱。
リボンを解くと、四つのチョコが出てきた。僕が渡した花びらの砂糖漬けが乗っている。
ので、彼が作ったものだとすぐわかった。
「生チョコは冷凍したら一週間は持つって言ってたけど、君、食べないでしょ」
「……食べたくはないですけど」
「彼なりに君に認めてもらおうと頑張っているんだけどね」
もっと粘ると思ったが、先生はそれだけを言うとまた冷凍庫に戻してしまった。
「君が処分してくれる?」
「いえ、僕、もう行きますんで」
失礼しますと頭を下げて、保健室を出た。約束はしていなかったけど、彼を待たなかった罪悪感は少しだけある。食べ物に罪はない。捨てられてしまうのは勿体ない。
分かっているのに、どうしても素直に食べてあげたいと思えなかった。
もう一度靴箱へ向かうと、窓から特別棟の廊下を歩く沖沼二人が見えた。
生徒会室へ向かっているとなると、次期生徒会候補なのだろう。
首席で入学、あの容姿、傲慢なぐらい自信家で、きっと何一つ不自由なく大切に育てられたであろう二人。
二人が何か会話しながら、彼が微かに笑うのが見えた。
僕の前では、ご機嫌を伺うためにいつも顔が硬直していたっけ。柔らかい彼の表情を見たら、僕はどんな気持ちになるのだろうか。
「壮爾さーん」
「うわ」
見ていたのを気づかれてしまい、窓から身を乗り出すように手を振りだしたので、僕は今度こそ逃げるように靴箱から飛び出した。
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