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六、運命交差 ⑥
「どうって、うちの父や沖沼家から何も聞いてないんですか」
軍手を渡されたので、装着する。けれど特に手伝うことはないらしい。点火する様子を見学しながら、佐伯さんの話の続きを待つ。
言いにくそうに言葉を探しながら、ジュースを冷やす利圭の背中を見た。
「聞いた時は驚いた。俺はβだから、お前らの本能を理解してやれねえ部分が多いし。だからあいつの事故も利圭のこと思うと、事件を起こした沖沼の坊ちゃんを半殺しか四分の三殺しか、十分の九殺しはしてやりたかった」
着火剤を拳銃のように手にもって構えた直後、すぐに項垂れた、
「だがなあ、利圭の番は、利圭の事好きだろ?」
「なんで分かるんですか」
「ガキの頃から、バイクを見てるのか利圭を見てるのか、わからんガキだった」
「……なんで」
火がついた墨を仰ぎつつ、佐伯さんはまた利圭の背中を確認した。
利圭はジュースを冷やしつつ、携帯を開いてゲーム画面をスライドし出した。
それを確認したのち、佐伯さんは店の方を見た。
「近くに名門なんちゃら塾ってのがあってよ、そこから抜け出したガキがバイクの修理を遠くから見てたんだ。だが塾講師に見つかりそうになって慌ててる姿が可哀そうでな。店の裏へ回り方教えてやったり、工場を見学させたりしてたんだ」
「それが、沖沼征一郎?」
僕が尋ねると、佐伯さんは頷いた。
「無口な子だったが、よおわからんがあんな小さな子に色々背負わせたり期待させたら、潰れちまうんじゃねえかなって心配でよ。うちで良ければ、偶には息抜きしろよって開放してやってたが、利圭が止まりに来た日は絶対に隠れてしまってたな」
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