10 / 122

2.3

少し離れたコインパーキングまで颯爽と歩いていき 車の横でようやく俺を下ろした。 「すみません」 頭を下げると九条さんは無表情で 乗って、 と指示する。 言われるまま 黒いランクルに乗り込んだ。 ー 流されてついて来ちゃったけど 大丈夫かな…。 「家どの辺?」 「北区の方です」 「遠っ」 言いながら九条さんが笑った。 ミディアムで少し長めの前髪を耳にかけて 車を発車させた。 運転する九条さんを眺めていたら 外気にあたり、少し覚めていた熱が また蘇ってきて、あわてて目を反らした。 「薬持ってないの?」 「……はい」 「Ωって普通、皆 持ち歩かない?」 「俺、薬効かない事なんてなかったし…」 「こんな事もあるから これからは、ちゃんと持ち歩けよ」 「はい……」 「て、ゆうか…おまえ名前何だっけ?」 「根岸です…根岸和真(かずま)…」 「あーそうだ、そうだ。 和真って呼ばれてた」 「く、九条さん、、でいいんですよね?」 「おお、九条 (れん)な」 そう言って一瞬だけ目を合わせて笑った。 彫刻みたいにキレイな顔がくしゃっとなって 少年のような顔になる。 それを見ただけで心臓が早くなるのを感じた。 ー ぁぁ~本当にヤバイ。さっきのキスのせいだ。 下半身が熱い、重い。 「…いいかげん、ヤバイな」 九条がボソッとつぶやいた言葉が 自分の心の声を代弁したようで、ドキッとした。 返事に困って黙っていると 車はホテルの駐車場に滑り込んだ。 「!?…あ、の?」 「ついたよ」 車を停めて、九条さんはさっさと自分の シートベルトを外した。 「ほら、お前の家まで我慢できないから ここに泊まろう」 ー 我慢って何だ!? 「いや、無理です!帰ります!」 「無理はこっちだよ このままじゃその辺の暗い道で停めて 車内でやっちゃいそうだ」 その言葉を聞いて心底ゾッとした。 ー あの噂は本当だったんだ 誰でも食っちゃうって…! 優しい顔に騙されてノコノコついてきてしまった。 絶体絶命だ!

ともだちにシェアしよう!