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汗で濡れた背中にそっと手を伸ばして
だきしめた。
繋がったまま、俺の上で呼吸が整うのを
待っている。
なんて気持ちいい脱力感。
頭の中も霧が晴れたように
スッキリしている。
空だって飛べそうな爽快感。
ー 何だろう。こんなの初めてだ。
「すっきりした?」
九条さんが頬にキスをして、オレの中から
出ていった。
「スッキリしました…」
九条さんは、よかったな、と優しく笑って
「シャワー借りる」
と、言い残してベッドを降りて部屋を出ていった。
俺は腰の重さを感じながらどうにか起き上がって
さっき自分が脱いだシャツで自分が吐き出した
残りを拭いて、シーツを剥がして、
洗濯機にほうり込んだ。
ちょうど浴室から出てきた九条さんに
タオルを渡して、入れ替わりで自分も
シャワーを浴びた。
「飲み物もらっていい?」
浴室をちょこっと開けて九条さんが律儀に
聞いてきた。
「どうぞ、九条さんが買ってくれた
やつですけど」
九条さんは笑って、いただきます。
と言ってドアを閉めた。
シャワーを浴びて出ると九条さんが部屋から
消えていた。
ー あれ?帰った?
玄関の靴もない。
ドアを開けてみると、すぐそこに九条さんは
立っていた。
通路の向こうの錆びた手すりに肘をついて
こちらに背を向けてタバコを吸ってた。
ほとんど日は落ちていたけれど
九条さんの見つめる先の空はまだうっすら
明るくて、後ろ姿が優しいシルエットにように
浮かび上がって見えた。
「蚊に刺されますよ」
隣に並んで空を見た。
「吸ってるから平気」
タバコを目の前でちらつかせてふーっとゆっくり
煙を吐き出した。
「え、吸ってると刺されないの?」
「なんか、そう聞いたことない?」
俺は笑って、さぁと首を傾げた。
「何で外で吸ってるんですか?」
「だって、灰皿なかったからさ
お前吸わないだろ。部屋臭くなるし」
言いながらポケットから携帯用の灰皿を出して
吸殻を捨てた。
「別に気にしないけど」
「俺が気にするわ」
二人で話しながら部屋に戻った。
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