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九条さんとは、もともと仕事場で顔を合わす事は 少なかった。 だから、その後も職場で口をきく事はなく たまたま会っても目も合わさなかった。 連絡が来たのも復帰したその日だけで それからはパッタリ連絡も途絶えた。 俺から連絡するのは気が引けた。 九条さんは付き合いも多くて、なにしろ プライベートは忙しそうだし そもそも連絡する理由が見つけられなかった。 そんなふうに日々は流れた。 あの、発情期の1日は夢だったんじゃ ないだろうか… そんな風に思い始めていた頃だった。 朝から どんよりとした雲が、空に蓋をしていて 空気が重苦しく、生暖かい湿った風が時折強く 吹きつけて、窓をガタガタ揺らしてた。 天気予報では大きな台風が来ていると騒ぎ 早めの帰宅を呼び掛けていた。 俺はどうしようか迷いながらも、今さら他の 交通機関を使っていたら遅刻しそうで 仕方なく、いつもどうりバイクで出勤した。 お昼をすぎた頃には外は激しい雨が降り注ぎ 工場内は節電で、人のいるライン周辺以外は 電灯が消灯しているため真っ暗だった。 俺は昼食後、皆が作業場に戻っていく中で トイレに向かった。 用を済ませて手を洗っていたら、突然現れた 人影に後ろからガシッと羽交い締めにされて、 驚いた俺は、うわっ!と声を上げた。 「やらせて、和真」 片手は俺の肩を、片手は俺の股をグッと握った 九条さんが、鏡に映っていた。 「えっ!? ちょっ…なっ何?」 「たまってるんだ…」 そのまま個室に連れ込まれそうになって 慌ててドアと壁を掴んだ。 「何してっ…もうベル鳴りますよ!」 「大丈夫、大丈夫」 「だいじょばない!!俺はラインに入ってんだから 居なければすぐばれるの!」 九条さんが、チッと舌打ちして俺を掴んでいた 手を緩めた。 その隙に腕をすり抜ける。 「…ったくもう! 人に見られたら どうするんすかっ」 「今日仕事終わったらクレセントで待っとけよ」 「は?」 「この雨だぞ。送ってやるから」 「………」 「何か予定あった? 台風だけど?」 「ないですけど…」 「じゃ、クレセントな」 言いながら個室に入って行ってしまう。 ー 何なんだ突然っ…勝手な事を…! 心臓のバクバクはしばらく治まらなかった。

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