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クレセントは工場の裏どうりにある レトロな喫茶店だった。 無口だけど優しそうで、品のよい主人が 1人で営業している。 職場の近くにあるけれど、工場の人間が ここを利用しているのはあまり見かけない。 仕事の後で、珈琲。というより 仕事の後は酒。もしくはさっさと帰りたい という奴らの方が多いのだろう。 それでもクレセントの向かえには、地方から働きに 出てきている期間社員が利用する寮があるため 利用する人間が少ない割には、認知度は高いのだ。 和真が店内に入ると客は一人も居なかった。 このどしゃ降りじゃ無理もない。 むしろ、よく営業してたな、と思った。 「ホット下さい」 カウンターの向こうで 雑誌を見ていた店主に言うと 「はいはい」 と小さく返事をして店主が動き出した。 革張りの固いソファーに座って 背もたれの後ろの窓を眺めた。 大粒の雨が激しく打ち付けていて 満足に外も見えない。 ー 九条さん本当に来るのかな… 忘れられてたりして… そんな心配をよそに それからすぐに、店の前の駐車場に 大きな黒い車が入ってきた。 「お疲れ」 店内に入ってすぐ、俺の姿を見つけて ニッと笑った。 「会社からここまでで既にびしょびしょ」 俺は足を伸ばして、自分の濡れたズボンを 九条さんに見せた。 「ホントだ。会社で一緒に乗せれば良かった?」 「…それは遠慮します。 やっと皆、あの日の事忘れかけてるのに」 「そういうと思ったよ」 九条さんはメニューを見ながら笑った。 「なんか腹減ったな。 もうここでなんか食ってく?」 「食べる!」 実はメニューが自分の好みにドンピシャで 気になるものばかりだった。 俺はハヤシのかかったオムライスを食べて 九条さんはカツレツを食べた。 期待を裏切らない旨さだった。 「幸せそうに食うなぁ」 九条さんが俺を見て目を細めて笑った。 「……旨いんだもん」 「俺、Ωがなんか食べてるとこ 見るの好きなんだ、なんか興奮する」 「……どんな性癖っすか」

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