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10. 2

蓮の誕生日は、2月14日だ。 まさかのバレンタイン。 その日は金曜で、朝 “おめでとう” の メッセージを送り ありがとう、と返事は来たものの 職場では話すことはなかった。 そして何も連絡のないまま週末が過ぎた。 誰と、どこで、何をしているかも 知らないまま。 日曜の夜になって、明日焼き肉に行こうと メッセージが届いた、まだ発情期じゃないけど? と返信すると、それはまた別の日でいい、と 回答が来たので、明日 仕事帰りに 車で拾ってもらう事にする。 でも翌朝、朝礼で蓮の姿を見たとき 俺は目を疑った。 右手に包帯、首にもコルセットを巻いた 蓮が遠くに立っていたのだ。 ー え、どういう事? 朝礼の後ですぐにメッセージを送ろうと 携帯を構えたら、こっちが打つ前に蓮の方から メッセージが届いた。 (びっくりした? 車ぶつけられたんだ。 大ケガはしてないから心配するな 今日の焼き肉は予定どおり 会ったときちゃんと話す) ー 事故!? 驚いたけど、会ったとき話すと言ってるし ぐっとこらえて仕事が終るのを待った。 長い1日だった。 「で、どうしたの?」 代車かと思われる、社用車のようなセダンに 乗り込んで、すぐに聞いた。 「横からまぁまぁ派手にぶつけられてさ 土曜日な、むち打ち」 蓮はいつものヘラっとした顔で笑いながら言った。 「そんな手で運転、大丈夫なの?」 「手は割れたガラスで切っただけだから 運転は大丈夫」 「……何にも連絡くれないんだね」 そりゃ聞いたところで何ができたか分からないけど 事故に在ってた事も、怪我してた事も 時間が経ってから知る現実に、何故か無性に 悲しくなった。 そんな俺の顔を見て、少し反省したように 蓮が ごめん、と謝った。 「和真を驚かしたくて黙ってたんだ ちょっとした悪ふざけ…すぐに連絡しなくて ごめんね」 信号で止まった瞬間俺の頬にキスをした。 それだけのことで、落ちこんでた気持ちがフワッと 軽くなってしまう。 単純な自分が情けなかった。

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