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一度、蓮の家に寄って、車を置いて徒歩で近所の 焼肉店に向かう。 狭い雑多な店だけど、グルメサイトでの評価が高く 週末は予約を受け付けていないため、よく行列が できていた。 だから俺たちは、ここに来たくなると予約が可能な 平日を狙って利用していた。 「よく食うな~」 いつものように蓮は俺が食べるのを 楽しそうに眺めながら、ゆっくり食べる。 「ほれほれ」 焼いた肉をトングで俺の皿にどんどん乗せて 時々そのまま俺の口に入れようとする。 「いや、熱いわ!」 「ハハハやっぱ熱かった?」 蓮が肉をヒラヒラ振って、フーフーと息を吹きかけ そこらじゅうに肉汁が跳ぶ。 「バカ!あっつ! めっちゃ油飛んできてる!」 俺がジタバタするのを、腹を抱えて面白がる。 そしていつも最後には、俺の口に食べ物を運んで 満足そうに微笑む。 最近分かってきた。 俺に何か食べさせるのは、蓮にとって前戯みたいな ものなのだ。 だから最近では蓮の喜ぶように、運ばれたものを 美味しそうに食べる。 そうすることに、何の抵抗も感じなくなっていた。 「その怪我じゃ…今日、できないね」 「何の話し?」 分かってるだろうに、意地悪な顔で笑って 俺の事を見つめる。 「……なんだろね」 「フフ、できるよ別に」 「体痛くないの?」 「痛いから今日は和真が上な」 「……む、無理してやらなくても…」 俺は顔が熱くなるのを感じて、ビールを一気に 飲み干した。 「無理してないけど、じゃぁ今日はやめとく? おとなしく寝ようか?」 蓮は俺を試すように笑って、帰る準備を始めた。 ー 何もしないで?寝るだけ? 今まで蓮の家に行って、しなかった事は1度もない 俺たちは、友達でも恋人でもない。 だからヤりたくなったら会う。 食事は口実。ヤりたくないなら会う理由がない。 その俺たちが、何もしないで寝る? ・ ・ 言った通り、蓮は帰ってシャワーを浴びても 何もしてこなかった。 俺は居心地の悪さを感じつつも 自分から誘う度胸もなく そっちがその気ならこっちだって!…と あえて素知らぬ顔で、ソファーに座り 隣に並んでテレビを見た。

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