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11. 記憶の果て

「和真、遅刻するぞ」 蓮が頬をパシパシ叩いている。 瞼が上がらない…。 「ネムイヨ…」 そう言ったつもりが声が出なかった。 「!?」 「あ、ほらな?喉痛いだろ」 俺は喉を押さえてうなずいた。 蓮が水のペットボトルを手渡してくれる。 それは風邪をひいた時と、そっくりだった。 「仕事休む?俺は行くけど」 「…行く…冬季は残業少ないから 1日休むだけでヤバイ」 ガラガラの声で答えて起き上がった。 俺が起きるのが遅かったせいで 遅刻ギリギリになってしまった。 蓮はいつものように少し離れた所にある コンビニで俺を下ろして、別々に出勤した。 俺はのど飴でも買おうかと一瞬迷ったけど 時間がギリギリだったので、あきらめてそのまま 職場へ走った。 同じラインで作業をしているメンバーは 皆、俺が風邪気味だと思って、労ってくれて 何だか申し訳なかった。 たぶん風邪じゃないのに…。 昼休み、友達と競うように食堂へ行き いつもの席でワイワイ騒ぎながら弁当を食べて 食後、携帯を眺めたり雑誌を見たりして それぞれ、ゆっくり休憩していると めずらしく蓮が近づいてきて、テーブルの 端に座る俺の前に小さなペットボトルを置いて 代わりに、俺が買っておいた未開封の缶コーヒーを 手に取った。 「交換して」 「……あ、ハイ」 それだけ言うと、蓮はコーヒーを つなぎのポケットに入れてさっさと 立ち去った。 目の前には“蜂蜜ゆず茶”のペットボトル。 一緒にテーブルを囲んでいた仲間達が この状況を突っ込むべきか、流すべきか お互いを見つめあって、しばらく沈黙した。 「え、九条さん和真が風邪気味なの なんで知ってたの?」 やがて1人が口を開いた。 「やっぱり?そうだよな? 風邪だから買ってきたんだよな?これ」 皆がペットボトルと俺の顔を交互に見て 勝手に話し始める。 俺は、さぁ何でだろ?と知らない顔で ペットボトルを開けて、ゆず茶を飲んだ。 「おまえらって、やっぱり……」 ー あ、めんどくさい事になりそう…。 「さーてと、トイレ行こ!」 大げさに伸びをして立ち上がって さっさとその場を逃げ出した。

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