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11. 2
ー 蓮のやつ…せっかく皆忘れてたのに
わざわざ疑われるような事して……!
席を立った時はバクバク心臓がうるさくて、
すぐにも蓮に電話して、文句のひとつも言って
やろうかと思っていたけれど、皆から離れ
電灯の点いていない、まだ暗い作業台の前まで
来たら、嘘みたいに心臓は静かになった。
ポケットから小さなペットボトルを出して
もう一口飲む。
「甘っ…」
携帯を出して、ありがとう…と
蓮にメッセージを送った。
すぐに既読になって、返信が来た。
(2、3日様子見て治らなかったら病院行け)
読んだ瞬間 吹き出した。
「保護者かよ!」
思わず1人で携帯に突っ込みを入れてしまった。
蓮の家に泊まるときは、蓮が職場から蓮の家までを
車で送迎したがるので原付は使わない。
いつもなら翌日の仕事の後も家まで送ってくれる。
でも今日は蓮が残業だったので、1人、バスと
電車を乗り継いで帰る事にした。
バスに30分ほど乗り、ターミナルになっている
駅まで行き、そこからは電車で2駅だ。
ついでだから夕食になるものを、買って帰る事に
した。
昨日肉を食い過ぎたから、健康を意識して、
たまには見映えのいいデリでヘルシーな物でも
買って帰ろうと、ショーケースを眺めていた。
「こんにちは」
突然声をかけられて振り返ると、見覚えのある
同じ年頃の男の子が立っていた。
明らかに外国の血が入っているであろう白い肌と
色素の薄い目。
そして、Ωの首輪。
「…あ」
すぐに思い出した。少し前に蓮と一緒にいた子だ。
「この前、蓮と一緒にいた…」
「うん、そうそう!覚えててくれた?」
「…この前はお騒がせしました」
軽く頭を下げた。
「いえいえ…
僕、もう一度会いたいと思ってたんだぁ!
ねぇ、時間ある?ちょっとお茶しない?」
あの夜とは全然違う。くるくる表情を変えて
人懐っこい笑顔で話す姿につられ、ついOKと
言ってしまった。
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