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「でも、向こうはそう思ってないんじゃないの?
俺にはただの幼なじみには見えなかったけど…」
「いいんだよ 俺の事は」
蓮は目を反らして誤魔化すみたいに笑った。
碧斗の事は話したくないんだな、と思った。
顔を見て分かってしまった。蓮も碧斗の気持ちに
気づいてるんだ。
気づいていて動けずにいる。
2人には俺なんかが想像もできない
色々な思いがあるんだろう。
好きか嫌いか…。
そんな単純には片付けられない
複雑な感情が。
ー 俺が口を出せる次元じゃないんだ。
クレセントを出て傘を広げた。
今日は朝から、弱い雨が降ったりやんだりだ。
蓮が傘を持ってなかったから車の傍らまで
一緒に入れていく。
「家まで送ってやるよ」
運転席に乗り込みながら蓮が助手席を指差す。
「いいよ、平気」
「警戒するなよ」
「してないって」
俺は笑って断った。
ご飯をおごってもらうにしろ、送ってもらうにしろ
セックスという、おまけがあったから、何となく
言葉に甘えてきた。けど、それが無くなった今、
理由もなく蓮を足に使うのは気が引ける。
また “お礼” をしたくなってしまう。
「色々ありがとう…ね」
「お別れみたいな言い方するなよ
毎日会うのに」
「一応 言っとかないとさ…」
「……何かあったらいつでも 連絡しろよ」
「も~ 過保護…」
二人でクスクス笑いあった。
もうすぐ春だと言うのに、風に舞いながら
落ちてくる細かい雨は冷たくて
せっかく暖かい飲み物で温まった体を
急速に冷やしていく。
傘を握る手も、すぐに冷たくなった。
「じゃぁ、また明日ね!」
軽く手を上げて歩き出した。
「おう、明日な」
蓮の声が追いかけてくる。
自分なりに気持ちは整理できた。
もう振り返らなかった。
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